郡上の老舗が挑む「食品サンプル」の新展開
郡上市に工場を置く食品サンプル製造の老舗、岩崎模型製造が原材料不足と需要環境の変化に対応するため、観光向け体験や地域連携といった用途の拡大に取り組んでいる。国内で食品サンプルの事業化を始めたとされるいわさきグループの一角として培われた技術を活かし、従来の飲食店向けの需要に依存しない事業モデルへの転換を図るのが狙いだ。
同社や関係者によると、近年は飲食店のメニューに写真が使われるようになり、サンプルの需要が低下していたところへ、今年3月以降の中東情勢の影響でナフサの供給が落ち込み、原材料が通常の約7割程度しか確保できない状況に直面した。仕入れ価格の上昇も重なり、従来の事業構造だけでは採算が取りにくくなっている。
- 原材料(ナフサ)の供給不足と価格上昇が生産に影響
- 飲食向け需要の低下を受け、観光や地域PR向けの用途に注力
- 長良川鉄道など地域事業者との連携で新たな活路を模索
こうした状況を踏まえ、岩崎模型製造は観光客向けのサンプル作り体験を積極的に展開している。記事ではシンガポールから訪れた家族連れの例が紹介され、子どもがレタスのサンプル作りに挑戦して楽しんでいる様子が伝えられている。来訪者自身が製作に携わる体験は、商品を単に販売するだけでなく、地域への誘客や滞在時間の延長につながる。観光資源としての価値を高める点で、地域経済への波及効果が期待できる。
「長年培った技術を生かせる場所を見つけたい」
─ 岩崎模型製造 代表 小酒井誓吾
また、2023年からは第三セクターの長良川鉄道と連携し、名産のアユや朴葉みそといった地域の食品サンプルを列車内に飾る取り組みを実施している。列車という移動空間を活用した展示は、単なる製品展示を超えた地域PRの手段として機能している。観光列車を訪れる利用者が増えれば、沿線の飲食店や土産品店にも波及効果が見込まれる。
岩崎模型製造の歩みを振り返ると、創業期にあたる1932年、岩崎滝三が洋食をろうで再現する手法で大阪で事業を開始したのが起点とされる。戦時中の疎開を経て地元に工場を持ち続け、戦後も岐阜工場を維持して今日に至る。郡上の地場産業としての存在感は大きく、地元に残る技術や雇用は地域社会にとって重要な資産だ。
ただし、原材料の供給不安と世界情勢の影響は簡単には消えない。ナフサの確保が不安定なままでは生産計画に制約が生じ、価格転嫁も難しい顧客構成では採算性が厳しくなる可能性がある。製造業として安定した操業を維持するためには、代替素材の検討や生産プロセスの見直し、さらには公共支援や業界横断の調達協力など、多角的な対応が必要になる。
岐阜の観光振興と地場産業の共生が鍵
地域にとっての示唆は明確だ。単一の市場に依存するだけでなく、体験型観光や交通事業との連携といった付加価値を生み出すことで、製品の需給変動に備えた収益源を確保することが重要になる。郡上市の事例は、地域資源を掛け合わせることで地場産業の持続可能性を高めるモデルになり得る。
住民にとっては、岩崎模型製造の取り組みが観光客の増加や地域のにぎわいにつながるかが関心事だ。観光客が増えれば周辺の飲食店や宿泊施設、交通事業にも好影響が及ぶ可能性がある一方、持続的な効果を得るには地場産業と観光行政、交通事業者らの連携強化が必要だ。
同社は今後も、培った技術を生かした新たな用途の発掘と地域との協働を続ける方針だ。原材料の確保状況や需要動向は注視が必要だが、郡上に根差す製造技術を地域振興に結びつける試みは、岐阜の地方創生の一例として注目される。
| 項目 | 内容(記事に基づく) |
|---|---|
| 企業 | 岩崎模型製造(郡上市) |
| 課題 | ナフサ不足、需要低迷 |
| 対応 | 観光向け体験、鉄道との連携など用途拡大 |