本巣市に本社を置く電装機器メーカー、レシップが開発したスマートフォンを用いる「デジタル切符」システムが、香川県の高松を起点に運行することでんで全国初の実運用に入ることが明らかになった。無人駅に設置されたQRコードを読み取り、ブラウザ上で切符を購入して決済する仕組みで、従来の紙の券売機や自動券売機を置き換える試みだ。
岐阜発の技術が地方鉄道の課題に対応
レシップはバス・鉄道用の運賃箱や行先表示器、ICカードリーダーなど交通向け電装機器を手掛ける企業で、製造は1970年から続けられている。山中勇人・レシップビジネス開発センターの発言によれば、スマートフォン上で紙の切符を買っていた時の感覚を再現する設計としており、利用者がアプリを事前にダウンロードする必要はない。QRコードからアクセスしたブラウザ上でスムーズに決済できる点を特徴としている。
「紙の切符を買っていた時のように、いつものように切符を買っていただく感覚を、スマートフォンで再現している」 — 山中勇人(レシップビジネス開発センター)
ことでん側は近年、券売機の維持費や集金業務が課題となっており、デジタル切符の導入で業務の効率化を図る狙いがあるという。レシップはことでんとの関係が20年にわたると説明しており、今回の運用は同社にとって得意先との協力で実現した実証的な事例となる。
住民や利用者にとっての影響と実務上のポイント
- 券売機の撤去による駅設備の省スペース化や維持費削減が期待される。
- 利用者はアプリ不要でQRコードを読み取り、ブラウザで決済するためスマートフォンがあれば比較的手軽に利用可能だ。
- 初めて訪れる観光客やインバウンド旅行者にも配慮した仕様で、会員登録などの負担を減らす設計をうたっている。
岐阜県内で製造されたシステムが公共交通の現場で採用される意味は大きい。まず直接的にはレシップの技術力を示す実績となり、同社の受注チャンス拡大や地域産業の評価向上につながる可能性がある。間接的には、無人駅が多い地方路線での運用コスト低減や、券売・集金業務の省力化を通じて自治体や鉄道会社の経営負担軽減に寄与しうる。
導入にあたっての留意点
とはいえ、実運用に移行する際には利用者の利便性と共に、いくつかの点に留意が必要だ。高齢者やスマートフォンに不慣れな利用者への対応策、通信障害や電池切れといった端末側のトラブル時の乗車方法、現金決済を含めた多様な支払い手段の確保など、現場運用で想定される課題は少なくない。
レシップはブラウザ上で決済できる点を強調しているが、駅に常駐の駅員がいない無人駅でのトラブル対応は、鉄道会社側と機器提供側が運用フローを詰めていく必要がある。今回のことでんでの導入が成功した場合、同様の課題を抱える地方鉄道からの問い合わせや導入検討が増える見込みだ。
地域経済と今後の展望
ものづくり企業が地元で育ち、地域外のインフラ現場で採用されることは、岐阜県の産業クラスターにとって追い風になる。レシップがこれまで長年にわたり交通向け機器を製造してきた実績は、今回のシステム化で可視化される。開発・導入が他地域で波及すれば、システム保守やソフトウェア運用、人材需要の増加といった形で本巣市や周辺の雇用・産業活動に波及効果が及ぶ可能性がある。
一方で、技術導入が進むほどに既存の設備や業務に依存する雇用構造の変化が生じる点は地域社会の課題でもある。維持管理費の削減が達成されても、その効果が地域内の新たな投資や雇用創出にどうつながるかは、行政と企業の協議によるところが大きい。
今回のことでんでの運用が岐阜発の技術の“実証”として成功するか否かは、導入直後の利用者の反応、現場でのトラブル対応、そして長期的な運用コストの改善の三点にかかっている。レシップは今回の香川での運用成功を踏み台に、同様の地域鉄道への展開を想定していると述べており、岐阜発の鉄道ITソリューションが地方の公共交通に広がるかどうかは注目される。
岐阜県内の住民にとっては、地場企業が培った技術が全国の交通インフラで実用化されることは誇るべき出来事であると同時に、地域産業の将来を考える契機でもある。どの程度地域経済や雇用に効果が波及するかは今後の動向を注視する必要があるが、まずは本巣発の取り組みが実運用でどう検証されるかが焦点となる。