概要と狙い
スターバックス コーヒー ジャパンは、群馬県みなかみ町で「森のスターバックス プロジェクト」を本格始動させた。2025年4月にみなかみ町と交わした連携協定を踏まえ、森林整備や間伐材の利活用、環境教育、廃棄物の循環利用などを含む一連の取り組みを推進する。みなかみ町の面積の約9割が森林である点、利根川の源流域に位置し関東の水資源に係る地域である点を重視し、水を事業基盤の核とする同社が視点を向けたことが背景にある。
具体的な取り組み
プロジェクトは複数の要素で構成される。現地の森林での耐久性検証を伴うウッドデッキ設置や、規格外の間伐材をあえて取り入れる「捨てないデザイン」、コーヒーかすを活用したたい肥化の実証、そして店舗で苗を育てて森へ戻す導線づくりなどが挙げられる。高校生や地域住民、森林活用協議会と連携する点も特徴だ。
- 未利用間伐材の店舗建材への応用(ウッドデッキでの耐久性検証)。
- コーヒーかすを用いたバイオネストによるたい肥づくり。
- 「山どり苗の保育園制度」として店舗で苗を約3年育成し森へ戻す仕組み(群馬県内17のドライブスルー店舗を活用)。
- パートナー(従業員)向けのフィールドでの環境教育や高校との実地連携。
未利用材への設計的対応と効果
林業・木材流通の現場では、形状やサイズが規格に合わないことで流通しにくい木材が発生する。今回のプロジェクトでは、そうした材を意図的に取り込むことで廃材率の低減を図る取り組みが進められている。通常の廃材率が60〜70%になるケースがあるところ、プロジェクトでの制作ではこれを30〜40%程度に抑えたと報告されている。板幅のばらつきをデザインとして取り込むなど、規格への合わせ込みで生まれる“捨てる”前提を転換する工夫がポイントだ。
森を学びの場とする意義
プロジェクトは現地の森をパートナー向けの教育フィールドとして位置付ける。森林整備の実作業や現場観察を通じ、日常の店舗業務がどのような自然条件に支えられているかを実感させる狙いがある。参加者の中には学びを店舗の掲示や接客を通じて来店客へ伝えるケースも出ており、企業内の学びを顧客とのコミュニケーションへと接続する工夫が見られる。
「地球と話すサードプレイス体験」
この表現は、同社が森での体験を通じて意図する価値を端的に示している。現地での体験は一過性のものにとどめず、日常の活動や店頭での情報発信に還元されることを想定している点が特徴だ。
循環の現場──たい肥化と苗の育成
みなかみの森では、群馬県内店舗から出るコーヒーかすを現地の土・落ち葉・竹チップと混合したバイオネストを使いたい肥化する試みが行われている。効果が確認されれば、群馬県内の植栽にそのたい肥を戻す計画だ。また、森で芽生えた稚樹を動物被害から守るために店舗が一時的に保育する「山どり苗の保育園制度」も導入される。店舗に置かれた苗は地域住民や来店者にとって、遠方にある森を身近に感じさせる接点にもなる。
地域共創と教育の重層性
今回の取り組みでは群馬県立利根実業高校の生徒が竹林整備や道づくり、バイオネストの造成などに参加している。学校教育と地域産業、企業の環境活動が現場で交差する形で、実地学習が地域の将来の産業や人材育成につながることが期待される。自治体、林業関係者、住民、企業が役割分担してプロジェクトを進める点は、単独企業の寄付や一過性のボランティアに留まらない持続性を醸成する契機だ。
現地での検証と今後の展望
プロジェクトでは、森に設置したウッドデッキで樹種や防護剤の組み合わせによる耐久性を検証中だ。敷地内に整備した周回動線は約200m弱で、通路に敷いた竹チップは歩行性向上に加え土に還り生物多様性に寄与する点が強調されている。林道づくりに際しては既存樹木をできるだけ避け、水の流れを読みながら道を造る設計を行うことで、集中豪雨時の崩落リスクを抑える取り組みも進む。
| 項目 | プロジェクトの現状・数値 |
|---|---|
| 協定締結 | 2025年4月 |
| 森林割合(みなかみ町) | 約9割 |
| 廃材率(通常) | 60〜70% |
| 廃材率(本制作) | 30〜40% |
| 店舗での苗育成期間 | 約3年 |
| 参加ドライブスルー店舗数 | 17 |
評価と論点
このプロジェクトは、企業が自社の事業基盤(ここでは水と森林)を保全するために地域と協働する新たなモデルの一例といえる。未利用材をあえて活用する設計的発想や、廃棄物(コーヒーかす)を地域循環に組み込む試みは、資源効率の改善と地域経済への波及を見込める。ただし、以下の点は今後の検証課題として残る。
- 未利用材の活用を拡大した際のコスト構造と流通の仕組み化。
- たい肥化や苗育成等の効果を定量的に示すモニタリング体制の整備。
- 地域住民や林業関係者との長期的な合意形成と役割分担の持続性。
企業の取り組みは地域資源を守る一助になり得るが、域内の林業振興や公共施策との整合、科学的検証の継続が重要だ。今後は、現地での耐久性やたい肥の効果、苗の定着率など具体的成果を公表し、他地域での再現可能性を示すことがプロジェクトの拡張に向けた鍵となる。
みなかみの水で抽出したコールドブリューが示した“場所性”の体験は、企業の消費行動と自然環境の結び付き方を再提示する。事業活動の恩恵を受ける水源を守るため、企業側がどのように地域と資源循環を描き、実務に落とし込むか。今回の実証は、その一端を可視化する試みだ。