地域に根ざす老舗企業が示す働き方の実践例
静岡市葵区に本社を置く切削工具製造の株式会社松岡カッター製作所は、創業以来の歴史を背景に社員の働き方改善と地域貢献を結び付けた取り組みを進めている。10月15日に同社で実施された視察研修では、代表の家族経営による組織運営や具体的制度の運用が紹介され、参加者から注目を集めた。
同社は昭和10年に製造を始め、静岡空襲で一時生産を中断したのち昭和21年に再開、昭和43年に現工場のある静岡市葵区古庄へ移転した。平成22年ごろから外部の創業塾や補助金・認証取得を通じて設備投資と組織改革を重ね、以降は新機械導入や生産性向上の取り組みを継続していると説明された。
導入された制度と社員への効果
視察研修で示された主要な制度の一つが、時間単位で取得できる有給休暇だ。就業規則を見直して制度化したことで、従来の丸単位休暇では対応しづらかった学校行事や医療の付き添い、自治会活動などに柔軟に対応できるようになったという。導入後は男性社員による子育てや介護に関連する休暇取得が増え、家庭と仕事の両立に寄与している。
また、産休中の業務カバーについては社員全員で支える体制を取っており、妊娠・出産を「慶事」として職場全体で受け止める文化が根付いている。保育園入園のための書類作成支援や復帰時の柔軟な勤務体制など、職場復帰を後押しする実務的な配慮も行われている。
「私たちがここで仕事をさせていただいているうえでは当然のこと。できることから、小さなことからこつこつとやっていきたい。」
この言葉は、地域清掃や伝統行事を含む地域貢献活動への姿勢を示すものだ。社内行事としては創業記念日のボーリング大会や鞴(ふいご)祭など長年続く習慣があり、社員間のコミュニケーション維持や地域企業との交流にも役立っている。
住民・従業員への具体的影響
- 時間単位有給により、保護者・介護者が短時間の付き添いで職場を離れやすくなり、家族の負担軽減につながる。
- 産休中の全員での業務カバーと復帰支援により、女性の職場復帰の可能性が高まり、地域の就業機会の安定に寄与する。
- 地域清掃や祭礼参加などの活動は、企業が地域の一員として公共空間や伝統行事を支える効果を生んでいる。
こうした制度運用は従業員の生活に直接的な影響を及ぼすだけでなく、地域コミュニティの担い手として中小製造業が果たす役割を具体化する事例でもある。特に、自治会活動や地域行事への参加をためらいがちな働き手にとって、時間単位休暇は地域活動への参画を後押しする働きをしている。
経営と組織づくりの背景
松岡カッター製作所では、経営に関しては代表の家族が中心となって取り組みを進めている。視察研修では専務取締役の松岡慶子氏が講演を行い、組織づくりや従業員の意欲喚起に関する考えを示した。平成24年度以降、国のものづくり補助金を連続して活用したことで製造設備の近代化が進み、社員がチャレンジする環境づくりにもつながったと説明があった。
社内行事や伝統行事を通じた一体感の醸成、業務の省力化による人手不足時の対応、そして労働制度の柔軟化――これらは相互に作用して職場の安定を支えている。視察に参加した企業や行政関係者にとって、現場で機能している制度とその運用の工夫は、他社の参考になる実例として受け止められた。
静岡で働く人・企業への示唆
今回の研修で示されたポイントは、規模の違いを超えて応用可能な点が多い。時間単位休暇や産休時のカバー体制、保育入園支援といった実務的な制度は、社員の離職防止や人材確保に直結する。静岡地域の中小企業が同様の仕組みを検討するうえで、松岡社の事例は導入にあたってのハードルや運用上の配慮点を示している。
一方で、制度を定着させるためには労使間の合意形成や就業規則の見直し、管理者の理解促進、業務の見直しによる負担分散など地道な取り組みが不可欠だ。今回の視察では中小企業診断士によるコーディネートも行われ、外部専門家の関与が実効性を高める一助となった点も確認された。
松岡カッター製作所の取り組みは、従業員の生活の質を高めると同時に、地域の社会的資本を支える役割を果たしている。静岡で働く人々と地域社会が相互に支え合う形をつくるため、同社の実践は今後も注目に値するだろう。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 事業内容 | 切削工具の製造業 |
| 所在地 | 静岡市葵区古庄 |
| 主な制度 | 時間単位の有給休暇、産休時の全員での業務カバー、保育園入園支援 |