さいたま市の小中学校で、英語に苦手意識を持つ児童生徒への対応が課題となっている。市立学校の現場からは「各クラスに10%前後の“英語が苦手”な子が見受けられる」との声が上がり、指導者は個別支援の在り方を探っている。一方で、読み書きの困難さを早期に把握する入学時アセスメントは同市でまだ導入されておらず、支援開始の遅れが子どもの自尊感情や学習意欲に影響する懸念も示されている。
現場が感じる「苦手層」の存在とケア
市立教育研究所(浦和区岸町)では毎月、ALT(外国語指導助手)が集うミーティングが開かれている。市立中学校を掛け持ちするALTや小学校のALTは、支援を要する子どもたちへの向き合い方を情報交換している。あるALTは、苦手意識の強い生徒への関わりをこう語る。
支援が必要な子をまず把握し、時間をかけて根気強く関わっている。
小学校のALTからも、話す活動に不安を抱く子どもに対し、様子を見極めて安心できる声掛けや、無理をさせない参加方法を考えるといった寄り添いの実践が聞かれた。専科教員の一人は、クラス内の実感として「英語が苦手な子どもは各クラスに10%ほど」と述べ、英字の筆記が思うように進まない、発表に踏み出せないといったつまずきが少なくないと明かす。
授業体制の実際—多人数配置でも支援は手薄になり得る
同市のグローバル・スタディ(GS)は、専科教員、担任、非常勤講師、ALTが複数で担う編成が多い。学校によっては、課題のある児童生徒に教員が付き添う形で、活動内容や指示を噛み砕いて伝える工夫も行われている。ただし、毎時間必ずALTが入るとは限らず、専科教員のみで授業を運営する場面も少なくない。人員体制そのものは“多い”ように見えても、教室内で必要な場面に十分な手が回らないジレンマがある。
背景にある読み書きの困難—専門家が指摘するリスク
英語の苦手意識の背後に、ディスレクシア(発達性読み書き障害)の特性が潜む場合がある、との指摘がある。言語聴覚の専門家は、英語は文字と音の対応が複雑で、学び始めてから初めて困難が表面化することも珍しくないと説明する。就学初期に読み書きの困難さを把握し、適切な支援へ橋渡しする自治体もある一方、さいたま市では導入に至っていないのが現状だ。
英語学習で初めて特性が表に出るケースは少なくない。早く気付くことが、不登校や自尊心の低下を防ぎ、学ぶ意欲を支える。
こうした見立ては、学校現場に対し、学年や学期の区切りを待たずにサインを拾い、支援につなぐ重要性を突き付けている。例えば、文字と音の結び付けが曖昧な様子、板書の写し取りに時間がかかる状況、人前での発話に強い不安が見られるといった行動は、個々の指導計画や教室環境の調整を考えるきっかけになる。
「聞く・話す」から「読む・書く」へ—中1の壁と意欲の低下
小学校から中学校に進む段階で、活動の重心が「聞く・話す」から「読む・書く」に移ることで、つまずきが増えやすい「中1ギャップ」も指摘されている。市の学習状況調査では、GSを「好き」「どちらかといえば好き」と答える割合が、学年が上がるにつれて下がる傾向が見られた。
| 学年帯 | GSを好む割合 |
|---|---|
| 小1〜小3 | 80%台 |
| 小4〜小5 | 70%台 |
| 小6・中学校 | 60%前後 |
学びの転換点で意欲が下がりやすい現実は、単なる「好き嫌い」の問題ではない。活動設計が読み書き技能の習得へ比重を移すのに合わせ、授業内の負荷や評価、宿題の出し方まで見直す必要がある。特に、板書や綴りの正確さに過度な比重が置かれると、苦手層の自己効力感が下がりやすい。少人数での練習、視覚支援、学習手順の明確化など、学びのバリアを下げる工夫が求められる。
支援を届かせるための具体策—学校と家庭でできること
入学時アセスメントが未導入の現状でも、学校と家庭が連携すれば、子どものつまずきを小さくできる。次のような取り組みは、教室内外で比較的取り入れやすい。
- 負荷調整:板書や長文筆記が辛い子どもには、フォーマット配付や語数を絞った課題で段階化する。
- 視覚・音声の二重提示:語の綴りと音声を同時に示し、読み上げ支援や図解を併用する。
- 発表方法の選択肢:全体の前での発話に代えて、ペアや小グループ、録音提出など安全な場を用意する。
- 成功体験の設計:短時間で終えられるタスクや、到達基準を個別に調整し、達成を見える化する。
- 家庭との情報共有:宿題の所要時間や負担感を家庭からフィードバックし、課題量や方法をすり合わせる。
こうした方策は、特定の子どもだけでなく、クラス全体の学びの質を底上げするユニバーサルデザインにもつながる。加えて、苦手さの背景が推測される場合には、校内委員会や専門職との連携で、教材・評価・座席配置などの環境調整を早期に始めることが重要だ。
制度整備の論点—早期把握と人員配置をどう両立するか
他自治体では就学時の読み書き困難アセスメントを起点に支援へつなぐ取り組みがある一方、さいたま市は未導入であり、現場の観察と日々の指導を通じて子どものサインを拾い上げている。制度の有無にかかわらず、鍵となるのは「早く気付き、途切れず支える」仕組みだ。具体化には、以下の観点が避けて通れない。
- 多職種協働:専科・担任・非常勤・ALTが情報を共有し、役割分担を明確化する。
- 時間の確保:個別支援や観察記録に充てる校内の時間枠を設ける。
- 評価の工夫:読み書きの負荷が高い課題に代替手段を用意し、努力と成長を可視化する。
現場では、毎時間ALTが入れない、付き添い指導に教員の手が回らないといった制約がある。だからこそ、授業設計そのものを「誰にとっても分かりやすい」方向へ最適化し、支援が個別の厚遇に依存し過ぎない体制づくりが急務といえる。
保護者に伝えたいポイント—早期相談と安心の土台づくり
家庭で見える小さなサイン(課題の極端な先延ばし、綴り学習への強い抵抗、人前での英語発話への不安など)は、学校に相談する大切な手掛かりになる。困り感を抱える子どもには、責める言葉よりも、できている点を認める声掛けが効果的だ。特に「中1ギャップ」の時期は環境変化も重なり、つまずきが表面化しやすい。早い段階で担任や英語専科、校内の相談窓口につなぐことで、支援の選択肢が広がる。
見通し—現場発の改善と制度の両輪で
さいたま市の英語教育の実情は、全国の学校が直面する課題を映す。GSの好意度が学年進行とともに低下するデータは、学習設計の難しさを物語る一方、改善の余地があることも示す。現場の丁寧な実践に、早期把握の仕組みや合理的配慮を制度として支えること。これが、英語に苦手意識を持つ子どもたちの学びを前進させ、結果としてクラス全体の理解と自信を底上げする王道だ。