検察の再検討義務化、対象は社会的弱者を狙う「7大犯罪」
2022年に発生した、精神障害のある男性が全身にあざを残して死亡していた事件の経緯は、今回の制度見直しの背景を端的に示している。当初、警察は被疑者の供述などを踏まえて送致しないと判断したが、検察が司法解剖の資料を重視して補充捜査を指示。最終的に再捜査を経て、被疑者が逮捕・起訴された。
こうした事例を受け、改正される刑事訴訟法では、児童虐待、障害者虐待、高齢者虐待、家庭内暴力、性暴力、青少年に対する性暴力、ストーカー犯罪のいわゆる「7大犯罪」について、警察などの捜査機関が送致しないと判断した場合でも、公訴庁の検事が必ず事件を検討することが義務付けられる。施行は10月2日。
改正の目的は、被害を訴えることが困難な社会的弱者を制度的に保護することにある。与党側は、被害者が異議を申し立てなければ検察が介入できない現行制度の盲点を是正する必要性を強調している。
「警察が当初から障害者虐待や高齢者虐待ではなく、単純暴行や詐欺、横領の容疑を適用すれば、全件送致の対象に含まれない」
この指摘は、対象をどう定義するかという課題を浮き彫りにした。被害の性質や被疑者に適用された容疑名によって、全件送致の対象から外れる事案が生じうるためだ。実際、立法過程では「適用容疑を基準にするのか」「被害者の属性を基準にするのか」といった基準設定を巡る議論が繰り返された。
運用面の懸念と検討点
現行制度では、警察が不起訴相当(不送致)とした場合、被害者が3か月以内に異議を申し立てない限り検察は介入できない。改正により一部の重要犯罪は全件公訴庁送致となるが、運用の詳細を詰める必要が残る。
- どの段階で検察が介入するのか(警察の捜査終了直後か、証拠の再精査を伴うのか)。
- 被害者の支援体制、特に国選弁護人や法律支援の適用範囲。
- 警察と検察の役割分担と情報共有の具体的手順。
専門家からは、対象範囲や基準の不明確さが新たな混乱を招く恐れがあるとの意見が出ている。一方で、被害者側代理人を長年務めた弁護士は、基準が曖昧だと現場での判断がぶれやすくなるため、早急な運用指針の整備を求めている。
「どの事件が全件送致の対象となるのかを巡って議論が起きないよう、基準をより明確にする必要がある」
被害者支援との接続が鍵
制度の効果は、検察の介入が実効性を持つかどうかだけでなく、被害者が救済や支援にアクセスできるかにも左右される。現行法の下では、交際相手からの暴力に関する事件で被害者が国選弁護士の支援を受けられないなど、支援の格差が指摘されてきた。
改正にあたり、次の点が重要になる。
- 被害者が適切な法的助言を受けられる仕組みの拡充。
- 警察と検察が被害者の意向を把握するための面談体制の整備(改正案は、被害者側からの面談申し出があれば可能な限り聴取することを盛り込んでいる)。
- 定義の周知徹底と、現場における研修の実施。
現場で何が変わるのか
改正後は、社会的弱者が関与する事件で警察の判断のみで終了とされるケースが減る見通しだ。検察は独自の観点から捜査記録や科学的所見を再評価することが期待される。ただし、そのための人員や時間、専門性の確保が不可欠で、検察庁側の負担増は避けられない。
また、犯罪類型の名目だけで判断するのではなく、被害の実態や被害者の脆弱性を踏まえた個別判断が重要になる。制度は被害者救済の強化を目指すが、現場運用が伴わなければ形骸化する恐れがある。
| 対象犯罪(7項目) | 趣旨 |
|---|---|
| 児童虐待 | 子どもの生命・成長を脅かす行為の保護 |
| 障害者虐待 | 支援を要する人々の安全確保 |
| 高齢者虐待 | 高齢者の権利と安全の保障 |
| 家庭内暴力 | 家庭内での暴力被害者の保護 |
| 性暴力 | 性的被害者の救済と二次被害防止 |
| 子ども・青少年への性暴力 | 若年層の特別な保護必要性 |
| ストーカー犯罪 | 執拗な追跡行為の被害者保護 |
制度変更は被害者保護の一里塚となるが、立法だけで終わらせないための具体策が問われる。捜査段階での証拠収集の徹底、医療や福祉との連携、被害者が法的支援を受けやすい環境整備──これらがそろってこそ、形式ではない救済が実現する。
今後は、関連法の運用指針の公表や現場向けの研修が焦点となる。被害者側と向き合う各機関が連携を深め、同様の見落としが繰り返されない仕組みを早急に作ることが求められている。