企業の水リスク管理に実務的指針を提供
水資源リスク評価研究会は、気候変動による水資源への影響を企業が評価・管理し、サステナビリティ情報開示や事業継続計画(BCP)に活用するための手引き「気候変動を踏まえた水資源リスク評価の手引き〜ISSB/SSBJを参照した意思決定・情報開示への活用〜」を、2026年7月10日付で無償公開した。公開場所は同研究会のウェブサイトである。
手引きは、気候変動に伴う将来の水量変動や渇水リスクを企業が評価する際の実務的な手順と考え方を整理したもので、特にシングルマテリアリティ(事業への影響)を対象にしている。解説では、公開ツールによる地域水ストレス指標の活用に加えて、個別拠点の実態を踏まえた深掘り評価の必要性を強調している。
- 公開日:2026年7月10日
- 公開方法:水資源リスク評価研究会ウェブサイトにて無償公開
- 想定利用場面:サステナビリティ開示、適応計画、BCP、立地・設備投資検討など
手引きは、TNFDやISSB/SSBJなど国際的な開示枠組みを参照しつつ、企業の意思決定に直接つながる実務的観点から整理されている点が特徴だ。具体的には、水ストレスの指標と企業拠点情報を組み合わせた評価プロセスを基盤に、拠点別の取水源や代替水源の有無、貯水能力、過去の渇水経験などの拠点固有情報を評価に取り込むことを求めている。
「気候変動による水資源への影響は地域によって大きく異なり、不確実性も伴います。そのため、水ストレス指標だけに依存するのではなく、企業の水利用実態や地域特性を踏まえて総合的に評価することが重要です。本手引きが、企業における実効性のある水資源リスク管理と適応策の検討に役立つことを期待しています。」
――水資源リスク評価研究会座長(東京大学 大学院工学系研究科)
手引きの構成と実務的要点
手引きは、評価の前提となる用語整理から現在リスクの把握、気候変動を踏まえた将来評価、重要拠点の深掘り評価、財務影響の考え方、開示への活用、適応策事例までを体系的に扱っている。企業が取るべきステップは次の通り整理される。
- 水ストレス指標による外部環境の把握(公開ツールの活用)
- 拠点固有情報の収集(取水源・取水量・用途・代替水源等)
- 重要拠点の深掘りと事業影響の評価(シナリオや不確実性の扱い)
- 財務影響の概算と開示への反映
- 適応策の検討とBCPへの組み込み
拠点評価に必要な具体的項目としては、取水源の種類や取水量、貯水施設の有無、水の再利用率、過去の渇水経験、BCPの整備状況などが挙げられている。こうした情報を組み合わせることで、単に水ストレス指標の数値だけでは見えない事業への実効的なリスクが明らかになるとしている。
| 評価段階 | 主な手法・着目点 |
|---|---|
| 外部環境評価 | 水ストレス指標、公開ツールの出力を参照 |
| 拠点情報収集 | 取水源、取水量、代替水源、貯水能力など |
| 深掘り評価 | 現地条件、BCP、過去事象を踏まえた定性的・定量的分析 |
開示・意思決定との接続と期待される効果
手引きは、企業のサステナビリティ開示(TNFDや統合報告など)に直接利用できる観点を示すとともに、設備投資や立地選定、サプライチェーン管理における意思決定ツールとしての活用を念頭に置いている。特に、将来予測の不確実性をどのように扱うか、複数シナリオや感度分析を用いた評価の方法論が実務者向けに整理されている点が重要である。
また、手引き作成には政府の研究プログラム(SIP)による成果が一部活用されており、学術・公的研究と企業実務の橋渡しを意図した構成となっている。これにより、各社が独自に評価手法を構築する際の共通基盤としての機能も期待される。
留意点と今後の課題
手引きは実務に寄せた内容だが、現実の評価にはデータ入手の難しさや、流域単位での管理・政策影響、地域社会や農業との水競合といった課題が残る。企業単体で対応できる範囲と、行政や水管理機関との連携が必要な領域を明確に分け、共同での適応策を検討する枠組みづくりが今後の焦点となる。
さらに、金融市場や投資家が水リスクをどのように評価・価格化するか、TNFDなどの国際枠組みと国内実務の整合性をどう確保するかも引き続き重要な論点だ。
手引きは無償で公開されているため、企業や金融機関、自治体、研究者が参照して実務に落とし込むことで、水リスクを巡る認識の標準化と適応行動の促進につながる可能性がある。公開資料は水資源リスク評価研究会のサイトで確認できる。