長距離転院搬送が常態化し救急隊に重いしわ寄せ
岐阜県下呂市で、地域医療の維持が困難になっている影響が救急現場にまで波及している。市内の医療提供体制の変化に伴い、病院から他の医療機関への転院搬送が増え、救急隊の稼働実態は長時間・長距離の運転を余儀なくされている。これは救急隊員の疲労を招き、安全運行にも影響を及ぼしている。
下呂市消防本部中消防署に所属する隊員は24人で、24時間体制の中で1日あたり約7人程度が勤務するという。2021年に統計を取り始めて以降、転院搬送は増加傾向にあり、2021年は132件、その後横ばいで推移し、直近の年は149件となっている。
- 転院搬送の長距離化:事例では、片道約50キロの搬送があり、往復で約100キロを走行した。
- 搬送時の勤務実態:当該事例では、勤務開始後に仮眠をとった直後に出動し、そのまま連続して転院搬送に従事したとされる。
実際に起きた救急車の単独事故とその経緯
2024年12月10日未明、運転中の救急車がガードパイプに衝突し炎上する単独事故が発生した。乗車していた隊員と医療スタッフ合わせて3人が負傷した。事故を起こした隊員は当時29歳で、事故直前に眠気を感じたと説明している。
「事故直前に眠気を感じました。注意力が散漫になり前方不注意によりハンドル操作を誤りました。とんでもないことをしてしまったと思いました」
事故当日は、隊員が午前8時半に勤務を開始し、午前0時半に仮眠に入ったが20分程度で出動要請を受けた。その後、現場での処置や搬送を経て、下呂温泉病院から高山赤十字病院へ転院搬送を行い、午前3時ごろに下呂温泉病院を出発、午前4時ごろに到着したという。帰路の下呂市内で事故が発生した。
背景にある医療の機能縮小と地域の変化
下呂市では人口減少と高齢化が進行しており、医師不足や病院機能の制約が指摘されている。事実として、市中心部にあった休日診療所が廃止され、案内看板も撤去されていると報じられている。医療機関の機能が十分に保たれない状況は、結果として市外への転院搬送を増やし、救急資源の負担増を招いている。
市議会でも今回の事故について、医師不足による病院機能の低下が転院搬送増加の一因であり、救急隊の負担増につながっているとの指摘がなされている。
住民にとっての具体的な影響と懸念点
- 救急到着時間の遅延リスク:搬送や転院に長時間を要することで、現場待機や翌出動の遅れが生じる可能性がある。
- 救急隊員の疲労蓄積:短時間の仮眠や連続勤務が常態化すれば注意力低下やミスの発生リスクが高まる。
- 医療の受けられる範囲の縮小:休日診療所の廃止などは、夜間・休日の受診機会を減らし、結果として救急の利用増につながる恐れがある。
これらは単に行政や医療機関の課題にとどまらず、救急を必要とする市民の安全と直結する問題である。
対応と今後の課題
報道では具体的な新対策の実施状況までは示されていないが、地域医療と救急体制の持続可能性を高めるために検討が必要な分野は明らかだ。長距離搬送の常態化を前提とした人員配置や勤務シフトの見直し、搬送先との連携強化、遠隔診療や地域医療支援による一次医療機能の維持など、複合的な取り組みが求められる。
住民としては、平時からかかりつけ医との連携、夜間休日の受診ルールの確認、救急利用の適正化など、自衛的な対策も必要だ。行政や医療機関は、地域医療を支える人材確保策や地域間連携の強化を急ぐ必要がある。
下呂市の事例は、人口減少が進む地域で共通して起こり得る問題を示している。救急車の単独事故という形で顕在化した今回の事態を契機に、地域の医療・救急体制の抜本的な点検と対策実施が急務である。