調査が示した“応援”の経済効果
eスポーツ業界のビジネス支援を行うCELLORBが公表した『eスポーツ業界ビジネスレポート2026』(7月公開)は、観戦者の消費行動に関する鮮烈な数値を提示した。15~69歳の2万人を対象にしたスクリーニング調査と、視聴経験者1,230人への本調査の結果、観戦関連の年間支出は「応援するチームや選手がいるかどうか」で劇的に異なることが明らかになった。
具体的には、応援対象がいない層の年間支出は平均1,614円にとどまる一方、チームと選手の両方を応援する層では平均37,698円。約23倍という差は、単なる統計的揺らぎでは説明できない構造的な隔たりを示している。
「推し」はコンテンツ消費を投資行動に変える
調査はまた、34の主要タイトルの認知率が66.7%に達する一方で、大会配信やプロチームの動画まで見たことがある層は全体の7.0%にとどまるという点を示した。だが、その視聴経験者のうち57.3%が直近1年間に有料配信や観戦チケット、グッズ購入などに実際に金銭を支出している。ここに「見る」から「応援してお金を使う」への質的転換が浮かぶ。
背景:なぜ“応援”がここまで差を生むのか
応援対象がない場合、消費は主にコンテンツへの対価でしかない。だが、特定の選手やチームを応援する状態では、観戦やグッズ購入、投票、サブスクリプションといった支出は、自分の物語や帰属意識を表現する手段へと変わる。アイドルやアニメで定着した「推し」の行為様式が、eスポーツファンの行動にも浸透していることが調査からうかがえる。
- 視聴経験者における有料消費の高率(57.3%)
- 応援の有無で分かれる年間支出(1,614円 vs 37,698円)
- 認知率の高さ(66.7%)と視聴経験の低さ(7.0%)の乖離
スポンサー依存という制度的制約
日本のeスポーツ産業は、黎明期の制度的経緯からスポンサー収入への依存を強めてきた。2018年に業界団体が統合され、JeSU(当時・日本eスポーツ連合)が発足した際、大会賞金を参加費から賄う形が賭博罪に抵触するとの解釈が広がり、スポンサーが賞金を直接提供する慣行が定着したという経緯がある。結果として、ファンからの直接的なマネタイズ回路が根付かなかったことが、データの不足や投資対効果の見えにくさにつながっている。
ファン数推計の食い違いと市場の成熟段階
ファン数の算定方法に関しても意見の相違がある。日本eスポーツ協会の白書では2024年のファンを約967万人、2026年に約1,500万人と予測しているのに対し、CELLORBの定義では約567万人となっている。どちらが正しいかを単純に決めるのではなく、ここから読み取れるのは「ファン」の定義が流動的であり、業界がまだ指標を一本化できていないことだ。
市場規模は2024年に約161億円と評価され、成長率は鈍化しつつある。熱狂的な拡大期から、ファン一人ひとりとの関係を日常的に構築する段階へと移行しつつあるいま、応援対象を生み出し維持する力が企業やチームの将来を左右する。
示唆と影響:業界はどこを変えるべきか
今回の調査が示すのは、量的な視聴者増だけではなく、質的な“推し”を育てることの重要性だ。次の点が業界にとっての当面の課題と示唆される。
- 「応援対象」を生み出すコンテンツ設計と選手・チームのブランディング強化
- ファンの価値を可視化する指標の整備と共通定義の確立
- スポンサー依存からの多様な収益モデルの模索(ファン課金を含む)
| 項目 | 数値(調査) |
|---|---|
| 認知率(主要34タイトル) | 66.7% |
| 大会配信等視聴経験者割合 | 7.0% |
| 視聴経験者の有料消費率(直近1年) | 57.3% |
| 応援なしの年間支出 | 1,614円 |
| チーム・選手両方を応援する層の年間支出 | 37,698円 |
結び:日常に根ざすファンづくりが鍵
eスポーツは知名度の拡大フェーズを経て、いま「日常化」の局面にある。調査が示す23倍という差は、観戦市場の未来がどれほど「応援の生産性」に依存しているかを物語る。選手やチームが単に試合で勝つだけでなく、個々のファンが自分ごと化できる物語や接点をどう創るか。産業としての持続性を左右する問いはここに集約される。
今後、eスポーツ界が取り組むべきは、指標と定義の整備、ファンと直接つながる収益手段の拡充、そして何よりも「応援される存在」を育てるためのコンテンツと体験の設計だ。市場が成熟するにつれ、応援の形とそれに伴う経済はますます重要な指標となるだろう。