「一人でも大丈夫」に社会の配慮は追い付いているか
職場の一角で昼休みに集まる数人の会話は、淡々とした日常のはずが、やがて職場慣行への不満に変わる。東北地方で働く50代女性は震災時の近所の声かけや、職場での扱いから「社会から家族を持つことを要請されている」と感じることが多いという。コロナ禍では、家族の有無によって配慮の度合いが異なり、独り身には出勤や出張のしわ寄せがかかった例もあると語る。
「『家族が○○だから』というだけですべてが許可されるのに、独り身は自分で何とかする、みたいな。独り身だけ出勤してこいとか、優先的に出張に行かされるとか。」
この声は個別の愚痴に留まらない。AERA編集部のアンケートでは、回答者288人のうち199人が「家族やパートナーがいることを当然視する社会だと感じる」と答え、約7割が違和感を抱いていることが示された。
制度やサービスの「家族前提」が生む見えにくい負担
日本の税制や社会保険、医療・介護の手続きなどには、家族や被扶養者を前提とした仕組みが散見される。入院時の身元保証人、緊急連絡先の取り扱い、配偶者控除や扶養控除といった制度は、単身者にとって手続きや負担の差となって現れる。
消費の場面でも違和感は残る。旅行での一人参加の追加料金、宿泊や居酒屋の「2名以上」条件、家族割引の設定など、サービス設計自体が複数を前提にしているケースが指摘された。一方で、個食向けの小分け商品や一人宿泊の選択肢は増えてきたという専門家の見方もある。
- アンケート:回答288人中199人が「家族前提の空気を感じる」と回答
- 国勢調査(2020年):生涯未婚率は男性が約28%、女性が約18%
- 将来推計:50年には全世帯に占める単独世帯の割合が44.3%になる見通し
| 調査項目 | 数値 |
|---|---|
| アンケート回答数 | 288人 |
| 「家族前提を感じる」回答 | 199人 |
当事者の連帯と社会の変化のはざまで
職場での不公平感は当事者同士の連帯を生んだ。独り身の労働者が昼休みに集まり、不満を共有する場面が増えているという。こうした日常の会話は、個人の消化に留まらず、制度や慣行の見直しにつながる可能性を示す。
独身研究を行う専門家は、若年層の未婚率上昇や単独世帯の増加に伴い、ソロの声がより顕在化すると指摘する。確かに、消費市場の一部ではソロ向けサービスが増え、選択肢が広がる傾向にある。しかし制度設計や労働慣行の多くは、まだ「誰かと暮らすこと」を前提にしたままで、見えにくい差別や不利益を形成している。
社会の包摂をどう進めるか
変化する家族構成を踏まえ、行政や企業は制度の柔軟化や配慮の均衡を図る必要がある。具体的には、手続き面での代替措置や、休暇・出張の配慮基準の明確化、単独世帯を前提としたサービス設計が挙げられる。だが、制度改正だけでなく、周囲の声かけや職場風土の改善といった文化的側面の変化も求められる。
当事者の声は単なる個別の不満ではない。人口構成が変わるなかで、「誰かと一緒」が前提のまま残る仕組みは、増え続ける単独世帯にとって生きづらさとなる。違和感を可視化し、制度と慣行を問い直すことが、より包摂的な社会への第一歩となるだろう。