国の補助要件厳格化で実験見送り相次ぐ
岐阜県東部の多治見、土岐、瑞浪、恵那、中津川、下呂の6市が合同で進めてきた自動運転バスの運行実験について、恵那市を除く5市が2026年度の実験を取りやめることが分かった。中止の背景には、国土交通省が今年3月に示した補助要件の厳格化がある。要件では、当初想定していた「レベル2」段階から、2027年度末までに全区間でのレベル4実現を求める内容が含まれ、未達の場合は補助金の一部返還を求められる可能性が生じたためだ。
これまで6市はオペレーター同乗の下で緊急時に手動対応する「レベル2」の条件で実証を重ね、路上駐車や歩行者の回避といった運行上の課題を洗い出してきた。自治体側は2027年度中の通年運行を目標にしていたが、補助要件の変更で実行可能性が大きく損なわれたと判断した。
恵那市は継続、車両購入など補正予算を計上
6市のうち恵那市は実験を継続する。恵那市はレベル4での運行実験開始を1年前倒しする方針を打ち出し、車両購入費約8千万円を含む総額約1億5400万円の補正予算を組んだ。11月から約90日間、岩村町内での運行実験を予定しているという。市の担当者は「ハードルが高くなったのは事実だが、十分に対応できると判断した」と述べている。
「ハードルが高くなったのは事実だが、十分に対応できると判断した」
一方、実験を見送った多治見市の高木貴行市長は、自動運転バスの導入自体を否定するわけではなく、タイミングを見計らって課題の検証や態勢整備を進めると説明している。5市はいったん今年度の実験を凍結するが、6市の枠組みを維持しながら将来的な導入を目指す姿勢を示している。
地域への影響と自治体の判断が意味するもの
今回の判断は、単に実験の是非だけでなく、地方の公共交通を巡る現実的な制約を浮き彫りにした。自動運転の実用化が進めば、運転手不足の緩和や交通事故削減といった効果が期待されるが、自治体が負担すべき初期投資や制度上のリスク(補助金返還の可能性など)が現実の障壁となっている。
具体的には以下の点が住民生活や自治体運営に影響する。
- 実験中止により、実用化の時期が遅れることで通学・通勤弱者の移動支援策の導入が先送りされる可能性。
- 導入を先行する恵那市は補正予算を組み、短期的には実証の進展とノウハウ蓄積が期待できるが、財政負担は増す。
- 国の補助要件が厳格化したことで、地方自治体の柔軟な実験計画立案が困難になり、地域ごとの実情に応じた段階的導入が難しくなる懸念。
自治体間連携と今後の課題
6市は共同で課題抽出やデータ共有を行ってきたが、今回の対応の違いは、自治体ごとの財政余力やリスク許容度の差を反映している。恵那市のように予算措置で前に進むケースと、一時停止して準備期間を置くケースが並立する状況は、地域全体での実用化スピードに差を生むだろう。
技術面でも法制度面でも、レベル4の要件を満たすことは容易ではない。全国で2025年度までにレベル4を実現した事例はごく限られており、地方での全区間導入はハードルが高い。自治体側は、国や事業者と実現可能なスケジュールやリスク分担を改めて協議する必要がある。
住民が知っておくべき実用的情報
今回の決定を受け、住民にとって重要なのは次の点だ。
- 今年度に予定されていた実験運行は多治見、土岐、瑞浪、中津川、下呂の各市では行われないため、実験に伴う路線変更や試乗機会はこれらの市では発生しない。
- 恵那市での実験は11月開始の見込みで、実験地域や期間、一般参加の可否などは今後市が公表する予定。関心がある住民は恵那市の公式発表に注意すること。
- 補助金の扱いや今後の導入計画は自治体ごとに異なるため、具体的な移動支援策や代替交通サービスの有無については各市の広報を確認することが望ましい。
地方の公共交通をめぐる現実は、技術的期待と財政・制度上の制約が交錯している。今回の判断は、その乖離が現場の判断に直結した事例だ。今後、国の方針と地方自治体の実情の調整が、地域の移動の将来を左右する重要な課題となる。
(山崎 大輔)
| 対象自治体 | 2026年度の扱い |
|---|---|
| 恵那市 | 実験継続(補正予算約1億5400万円) |
| 多治見、土岐、瑞浪、中津川、下呂 | 今年度の実験を取りやめ |