行政と生活の双方で進むデジタル移行
ベトナム南部ドンナイ省のダクニャウ村で、行政サービスのオンライン化と日常のキャッシュレス化が同時進行している。村は182平方キロメートル超の広い面積に5つの村が点在し、住民は2万4,600人超。そのうち少数民族が約1万3,000人(約53%)を占める。地理的分散や技術アクセスの制約が課題とされてきたが、行政機関のデジタル化と住民支援の両輪によって、利用の裾野が広がりつつある。
村は、科学技術革新および国家デジタル変革に関する方針に沿って、行政内部の基盤整備を先行させた上で地域展開する戦略を採用。オンライン公共サービスの運用を軸に、手続きの迅速化と住民サポートの体制構築を進めた。公共行政サービスセンターでは428件の行政手続きを扱い、2026年初頭から現在までの住民・企業からの申請はすべてオンライン受付となっている。処理の適時率は98.4%に達し、安定運用が確認されている。
「現在、当地域では428件の行政手続きを受け付け、処理しています。2026年初頭から現在まで、市民および企業からの申請はすべてオンラインで受け付けており、申請の適時処理率は98.4%に達しています。」
基盤整備と人材育成を同時展開
ダクニャウ村は、役場内のデジタル運用能力を底上げした。役人・公務員は文書・ファイル管理ソフトや共有デジタルプラットフォームの研修を100%受講し、大半が電子署名を用いたオンライン処理にも習熟。各地区にはコミュニティのデジタル技術チームを配置し、世帯レベルまで巡回して支援を行う仕組みを整えた。通信インフラ面では、全域で通信・インターネット網が稼働し、中心部では5Gの展開が段階的に進む。全世帯が固定またはモバイルのブロードバンドにアクセス可能で、有線回線の世帯比率は70%以上に到達している。
「コミュニティのデジタル技術チームは、各村、さらには各世帯にまで出向き、人々のデジタル変革を指導し支援しています。(中略)通信およびインターネットネットワークは現在すべての村をカバーしており、中央地域では5Gの展開が徐々に進められています。」
| 指標 | 値 |
|---|---|
| 面積 | 182平方キロメートル超 |
| 行政区画 | 5つの村 |
| 人口 | 2万4,600人超 |
| 少数民族人口 | 1万3,000人超(約53%) |
| 行政手続き数 | 428件 |
| オンライン申請の適時処理率 | 98.4% |
| 世帯のインターネットアクセス | 固定・モバイルとも全世帯が可能 |
| 有線インターネット普及 | 70%以上の世帯 |
SNS販売とキャッシュレス、生活に根付くDX
デジタルの裾野は商取引にも及ぶ。村内では、露店や市場の小規模商人がQRコードによるキャッシュレス決済アプリを使い始め、現金依存の軽減が進んだ。家庭の小さなキッチンからFacebookのライブ配信で商品を紹介し、ZaloやTikTokへの投稿を重ねて安定収入を得る住民の姿もある。注文対応は家族で分担し、直接配送や宅配サービスを使い分けるなど、デジタルとリアルの組み合わせで販売機会を広げている。
「毎日、Zalo、Facebook、TikTokに投稿し、昼食時や夕食時などのピーク時にはライブ配信をして商品を紹介しています。(中略)この方法の利点は、いつでも販売できることです。」
文化面でも動きがある。2026年6月末の少数民族文化祭では、地域の錦織製品が注目を集め、オンライン販売を視野に入れた生産協同組合の構想が住民間で具体化。すでに男性用の錦織シャツが40万ドンで売れるなど、需要の兆しが見えたことで、展示スペースの整備や組織化に向けた提案が進んでいる。
ボトルネックを越えるための着眼点
ダクニャウ村の取り組みは、広域・分散地域におけるデジタル包摂の実装例として示唆的だ。鍵となったのは、次のような段階的アプローチである。
- 行政内DXの先行整備:職員のデジタル技能を底上げし、オンライン手続きの標準運用を定着。
- 現場密着の支援網:技術チームが世帯まで出向き、利用定着を伴走支援。
- 通信インフラの面的整備:全域カバーと5Gの段階導入で、利用基盤を担保。
- 生活・生業への直結:キャッシュレスとSNS販売で家計の収入機会を拡張。
一方で、今後の課題も見通せる。人口の分散や住民のデジタル経験の差は依然大きく、継続的なリテラシー支援が不可欠だ。決済や個人情報の安全を担保する仕組み、オンライン公共サービスのユーザビリティ改善、文化産品の販路拡大に向けた物流・マーケティング支援など、生活と行政の双方で改善サイクルを回す必要がある。
地域発DXのベンチマーク
オンライン申請の98.4%という処理の確実性、全世帯のブロードバンド到達、QR決済とSNS販路の普及は、デジタル格差を乗り越えるための土台になり得る。行政主導の基盤整備と、住民の自発的な活用の双方が揃うことで、農村・少数民族地域でもデジタル化の実効性が高まることを、同村の事例は示している。今後、協同組合の立ち上げや5Gの展開拡大が現実化すれば、地場産業や個人事業の生産性向上に波及する可能性は大きい。地域に根差したデジタル変革の成果が、どこまで持続し拡張できるかが次の焦点となる。