神楽坂で磨いた技、家族の時間優先し岡山へ
東京・神楽坂で13年間そば店「もがみ」を営んだそば職人の最上はるかさん(以下、最上さん)は、今年2月に東京の店を閉め、5月に岡山市北区御津地区で古民家を改装した新店を開業した。東京で長年培った技術を携えての移住と開店は、店主本人の子育ての事情と、地域の空き家や文化の継承をめぐる出会いが背景にある。
移住の背景と決断
最上さんは20歳からそばの道に入り、東京のミシュラン一つ星店「蕎楽亭」で修業を積んだ後、26歳で独立。神楽坂で13年間店を続けてきた。地元を離れる決断について、最上さんは子どもを育てる環境を重視したと語っている。本人の言葉を紹介する。
「ずっと東京でやるもんだと思う一方で子どもが生まれて、子育てのことを考える中で、東京の家がすごく狭くて、やっぱり子どものことが大きかった」
最上さんは夫の実家がある建部地区周辺で古民家を探していたが、隣接する御津地区の築130年以上の実家を改装した物件と出会い、大家の松岡さんら地域の関係者との関係を通じて開店に至った。大家側も、相続や維持が課題だった屋敷を「そば店」という形で継承できることを歓迎している。
店の特色と地域への波及効果
新店では、石臼で少量ずつひいたそば粉を使い、打ち立てを短時間でゆで上げる提供方法にこだわる。東京での経験を踏まえ、香りを保った状態で客に届けるための店内レイアウトも工夫している。地元産の野菜を中心にした天ぷらも人気で、SNSなどを通じて県外からの来訪客もいるという。
静かな山あいに位置する立地だが、平日でも午前9時半の開店と同時に客が訪れる日がある。地元住民の声からは、店の存在が周辺の人の商機や地域のにぎわいにつながっている様子がうかがえる。近隣の住民が自宅の畑の野菜販売を始めるなど、小さな経済活動の活性化が見られる。
- 東京で培った「そば」の技術が地方で受容され、地域の食文化に影響を与えている。
- 古民家を活用した店舗開設が、空き家対策や地域の景観維持につながっている。
- 子育て環境を重視した移住が、飲食店経営の在り方に一つの選択肢を示している。
東京の住民にとっての示唆
今回の事例は、東京で飲食店を営む人や子育て世代にとって示唆に富む。まず、都心部の住宅事情や子育て環境が事業継続の意志に影響を与える実例であり、家族優先で地方移住を決めた職人のケースとして注目に値する。また、東京で培った専門技術が地方で求められ、地域振興につながる可能性を示している。これは単なる「移転」ではなく、地域文化の横断的な流通を伴う動きでもある。
住民に役立つ実用情報
取材で得られた営業情報は次の通り。訪れる際の参考にしてほしい。なお、詳細な住所や駐車場の案内は店舗側の案内やSNSで確認すること。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 開店時間 | 平日・土曜 午前9時30分開店 |
| 主な特色 | 石臼で少量ずつひいたそば粉、地元産野菜の天ぷら、古民家の庭を眺められる店内 |
来店や駐車の状況は週末や観光シーズンで変わるため、事前に最新情報を確認することを勧める。周辺は山あいの静かな地域で、交通量や駐車スペースに限りがあることが想定されるため、公共交通機関や近隣の駐車ルールに配慮してほしい。
今回の移転は、東京の食の名店が地方で新たな役割を担う一例として注目される。最上さんは「岡山でもそばを広めたい」と語り、地域との協働による文化継承を目指す。東京で同様の悩みを抱える飲食店主には、子育てや暮らしと事業の両立を考える際の実践例として示唆を与えるだろう。
(取材・文=佐々木 翔)