増え続ける空き家と“予備軍”への対処
東京都は近年、空き家対策に一段と力を入れている。総務省の住宅・土地統計調査(令和5年)をもとに都が整理したデータでは、都内の空き家は約89万6500戸(空き家率10.9%)に達し、さらに65歳以上のみが居住する持ち家が約100万戸あり、都はこれを将来の空き家化リスクが高い「空き家予備軍」として位置づけた。都はこの合計が住宅ストックの2割近くに相当すると見ており、放置すれば防災や街の維持管理、税収基盤に影響を与える懸念があると説明する。
都が打ち出した施策は大きく分けて「取引促進のモデル事業」と「解体費などに対する区市町村への財政支援」の二本柱だ。特に、相続で所有者が分散した物件や、賃貸用に供されているが入居が付きにくい住宅に対して、流通を促す仕組みづくりを進める点が特徴だ。
何が問題なのか——東京ならではの構造
空き家増加の背景には、東京都特有の複合要因がある。都内は人口流入と地価上昇が続く一方で、住宅着工に占める貸家の比率が高く、賃貸供給が過剰になりやすい構造が指摘される。都内の空き家のうち約7割が賃貸用(62万9000戸)であることから、単に地方の過疎地で見られる「使われなくなった実家」とは違う様相を呈している。
また、団塊世代の高齢化に伴う相続の集中や、相続人が都心に住んでいて遠隔地の一戸建てを活用しないケースなど、実家と相続人の生活実態のミスマッチも深刻だ。マンションの空き住戸は外から把握しにくく、区分所有者間の合意形成が難しいため対応が遅れがちだという指摘もある。
住民と地域に及ぶ具体的影響
- 防災面:放置された住宅は倒壊や延焼のリスクを高め、木造密集地域(木密地域)での火災拡大の危険性を増す。
- 財政面:周辺の不動産価値低下や居住環境悪化が進めば、中長期的な固定資産税収の基盤が損なわれる可能性がある。
- まちづくり:空洞化が進むと商店街や公共施設の利用が減り、地域の活力低下につながる。
都は2010年時点で約1万6000ヘクタールあった木密地域を不燃化事業で縮小し、2025年3月時点で約7100ヘクタールまで改善させたが、依然として整備が必要な地域が残っている。都が2030年度目標とする不燃領域率70%の達成にも差がある。
行政の狙いと実効性の課題
都が取引促進を進める狙いは、単に空き家を減らすだけでなく、防災上の脆弱性を低減し、税収基盤や街の魅力を維持する点にある。具体的には、区市町村を通じた解体補助や、PropTech(不動産テック)や片付け・物流サービスの活用を後押しして、売買や賃貸への再投入を図る方針だ。
「空き家になる前の住宅の取引を後押しする」
ただし実効性確保には課題が残る。都内の住宅ストックは多様で、所有関係が複雑な物件やマンションの空き住戸は行政だけでは動かしにくい。相続登記の義務化が進む中で、所有者の把握・連絡先特定、利害調整、改修や解体の財源確保といった現場レベルの障壁が多数存在する。
| 指標 | 数値 |
|---|---|
| 東京都の総住宅数(2023) | 約820万戸 |
| 空き家数 | 約89万6500戸 |
| 65歳以上のみの持ち家(予備軍) | 約100万戸 |
| 空き家のうち賃貸用 | 約62万9000戸 |
住民・事業者が取るべき具体的行動
現時点で住民や地域事業者ができる現実的な対応は以下の点だ。
- 所有者は相続登記を速やかに済ませ、所有関係を明確にする。これにより行政支援や売却交渉が進めやすくなる。
- 区市町村は都の補助を活用して解体・除却や合意形成支援に注力する。特に木密地域では優先度を高める必要がある。
- 不動産事業者やスタートアップは、既存ストックの流通を促すサービス(リノベーション、共同管理、短期貸し運用など)を構築・拡充することが求められる。
東京都の動きは、単なる空き家対策の枠を超え、都市の耐久性と暮らしの質を守るための長期的な基盤整備に向けられている。都が提示するモデル事業の成果と、区市町村や民間事業者との連携の進捗が、今後の都心・郊外の住環境に大きな影響を及ぼすだろう。
(担当記者・佐々木 翔)