県が奨学金返還支援で中小企業の採用・定着を後押し
茨城県は本年度、奨学金を返済している従業員に対して代理返還や手当を支払う中小企業へ、費用の一部を補助する新たな支援事業を始めた。若年層の県外流出が課題となる中で、経済的負担の軽減を通じて県内就職やUIJターンを促すねらいがある。制度の詳細は県労働政策課が周知を進めており、説明会には地域の建設業者らが出席して活用を検討している。
制度の対象は、今年4月1日以降に正社員として採用された従業員。企業が代理返還や手当として支払った金額の2分の1を補助し、1人当たり年間上限6万円、最長36か月にわたり補助される仕組みだ。1社当たりの補助対象は原則各年度3人までだが、茨城県が定める「働き方改革優良(推進)企業」などの認定を受けた企業は対象枠が5人までに拡大される。
本事業に計上された一般会計の当初予算額は300万円。県は制度の周知に加え、県内学校や採用活動の場で制度を活用する企業のPRを進め、人材確保に苦しむ中小企業の実務的な採用支援につなげたいとしている。
「人材確保に苦しむ企業にぜひ活用してほしい」
背景には、奨学金の返済が若年層の生活や将来設計に与える重みがある。労働福祉中央協議会の調査では、日本学生支援機構(JASSO)の奨学金利用者の借入総額は平均で約310万円、月平均返済額は約1万5千円に上るとされ、返済を「苦しい」と感じている割合は4割を超えるというデータがある。こうした負担が就職先選びに影響を与える可能性を見越し、県は直接的な金銭支援で企業の採用条件を補強する方針だ。
企業側でも代理返還制度などを導入する動きは急速に広がっている。JASSOの集計では、代理返還制度を実施する企業は全国で2200社を超える。一方で、県内企業の人手不足感も強く、帝国データバンクの調査では茨城県内で正社員の人手不足を訴える企業は52.8%と高水準が続いている。こうした状況を踏まえ、県は本事業を採用競争力の一助に位置づける。
地域業界の反応と現場の課題
制度説明会は水戸市で行われ、建設業界の関係者ら約40人が参加した。業界側は高齢化が進み、新卒の入職者が不足している現状を訴え、若手確保のための新たな採用条件整備に期待を寄せている。説明会で参加した業者の代表は、将来の人材供給維持に向け制度の周知徹底と手続きの簡便化を求めた。
- 補助は企業が支払った額の半分を負担、個人負担軽減と企業負担の緩和を同時に図る設計。
- 認定企業向けの拡充枠により、働き方改革を進める企業が優遇される。
- 市町村単位の独自支援(例:土浦市・高萩市の制度)と組み合わせての活用が見込まれる。
県内の一部自治体は既に別枠で奨学金返済を支援しており、土浦市や高萩市は市内で勤務・居住する若者を対象に補助金を支給する事業を行っている。県の取り組みはこれら市町村施策と連携すれば、企業採用の魅力付けにさらに寄与する可能性がある。
住民・求職者への影響と留意点
この制度により、奨学金残高が就職先選択の足かせになっている若者にとっては、県内企業へ就職した際の実質的な負担軽減が期待できる。企業側にとっても採用時の条件提示で他社との差別化が図れる一方、実際の効果は制度の周知度と申請手続きの運用次第だ。
利用を検討する企業は、制度の適用条件や申請に必要な書類、補助対象となる支払い形態(代理返還・手当のいずれを含むか)などを県労働政策課に確認することが必要だ。特に、認定枠の拡大を受けるためには県の定める要件を満たす必要があるため、認定取得の可否が採用戦略に影響し得る。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 補助率 | 企業支出の1/2 |
| 個人上限(年) | 6万円 |
| 補助期間 | 最長36か月 |
| 1社当たりの対象人数 | 原則3人/認定企業は5人 |
| 今年度予算 | 300万円(一般会計当初予算) |
県は今後、地域企業や学校と連携し、採用の場で本制度を紹介する取り組みを強める方針だ。求職者は就職先を選ぶ際、奨学金返済に関する企業の支援の有無を確認することで、生活設計に直結する比較材料を得られる。企業は採用・定着策として導入を検討する価値があり、特に若年層の採用力を高めたい中小企業にとって実務的な支援手段となるだろう。
(取材・文=中村 智子、茨城県担当記者)