和歌山県みなべ町で2022年に始まった「梅収穫ワーケーション」が、梅農家の人手不足を補いながら、参加者の滞在や交流を通じて地域の活力を生む取り組みとして広がっている。昨年は228人が参加。今季(5~7月)も、都市部を含む多様な人が農作業に加わり、収穫期の負荷を軽減している。梅の収穫量は2024年から減少傾向にあり、今季も暖冬の影響で落ち込みが見込まれるなか、現場を支える手段としての実効性が注目される。
人手不足と不作、二重の逆風に現場で対応
県内の梅産地では、担い手不足に加えて天候要因による不作が重なり、収穫作業の効率化と柔軟な労力の確保が課題になっている。JAわかやま紀州地域本部によれば、みなべ町と隣接する印南町で約1400戸が梅を栽培。2024年以降は収穫量の激減が続き、今季も昨冬の高温が響く見通しだ。現場では、落果した青梅を傷つけないようネットを地表に敷くなどの工夫を施し、限られた作業時間に人手を集めて拾い集める作業が中心となる。
みなべ町の梅農家・山本康雄さん(63)の園地では、今季も地域外の参加者が作業に加わった。現場の負担は小さくないが、外部からの助力が気持ちの面でも支えになっているという。
「不作が続くと気持ちが沈むが、手伝いに来てくれる人が増えると、また頑張ろうと思える」厳しい収穫現場に直接人が入ることの意義は、単なる労働力確保にとどまらず、農家の意欲や地域の連帯感にも波及している。
ワーケーションの仕組みと参加の実際
この取り組みは、一般社団法人日本ウェルビーイング推進協議会が企画・運営する。期間は5月から7月にかけてで、時期により準備・収穫・片付けと作業内容が変わる。参加費は無料で、交通費などは自己負担。作業の時間帯を選べるため、リモートワークを併行しながら参加する形も可能だ。昨年は首都圏を含む都市部からの参加が多く、関係人口の拡大にもつながっている。
実際に初参加した和歌山市の会社員・山本幸司さん(45)は、拾い集めるほどかごが重くなる達成感を語り、次回は家族同伴の意向を示した。公務員の妻、尚子さん(51)は現場の香りや空気に触れ、日常から離れてリフレッシュできたと話す。現地の生産者との対話が、作業の理解を深める一助にもなっている。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 実施地域 | 和歌山県みなべ町(主産地) |
| 実施期間 | 5~7月(準備・収穫・片付け) |
| 参加費 | 無料(交通費等は自己負担) |
| 昨年の参加者数 | 228人 |
| 主催 | 日本ウェルビーイング推進協議会 |
| 栽培戸数の目安 | みなべ・印南で約1400戸 |
ウェルビーイングの観点と地域への波及
同協議会の島田由香代表理事(52)は、自然や人との関わりを通じて得られる満たされた状態を「ウェルビーイング」と説明し、農家・参加者・地域の三者で価値を共有する狙いを示す。作業支援は、生産現場の即戦力となるだけでなく、地域外の人が滞在し、宿泊・飲食・交通など周辺消費を生む。観光庁もワーケーションの受け入れ事例を示してきた経緯があり、県内では白浜町が先行している。梅の主産地であるみなべ町での展開は、農業と滞在型交流の掛け合わせとして定着が期待される。
一方で、受け入れ側には安全管理や作業手順の標準化、繁忙期の調整など運営上の課題もある。炎天下での長時間作業は熱中症リスクが高まるため、休憩や給水、帽子・手袋などの装備は欠かせない。参加者は農家の指示に従い、園地内の動線やネット敷設箇所を踏み荒らさない配慮が求められる。地域住民にとっては、収穫期にあわせて交通量や宿泊需要が増す局面があり、混雑時間帯の把握や駐車スペースの確保など、生活との両立を図る視点も重要だ。
暮らしへの具体的な影響と実務情報
みなべ町の果樹産業を支える人手が確保されれば、出荷の安定や品質維持に直結し、加工・流通・観光の周辺産業にも波及する。県内加工業者にとっても原料の確保は死活的で、収穫支援が結果として価格高騰や供給不安の緩和に寄与する可能性がある。参加希望者は、募集時期や作業内容、服装・持ち物、保険の取り扱いなどを事前に確認したい。申し込みは同協議会の案内に基づくため、最新の実施要領や空き状況を公式情報でチェックするのが安全だ。住民側は、受け入れ農家への連絡体制や集合場所の周知、地域内のトイレ・休憩所の開放状況など、小さな整備が円滑な運営を支える。
- 炎天下の作業は熱中症対策(水分・塩分・休憩)を徹底
- 園地の指示系統(安全確保・作業手順)を事前共有
- 宿泊・交通は繁忙期前の予約で混雑回避
梅の木の下での単純作業に見えても、落果状況や熟度に応じた判断、ネットの扱い、集荷のタイミングなど生産者のノウハウが凝縮される。だからこそ、短時間でも丁寧に手を貸す人が増える意義は大きい。参加者の一人は、
「かごがずっしり重くなるたびに達成感があった。次は子どもとも来たい」と話した。作業を通じた理解が、次の季節の再訪や家族・友人への紹介につながれば、関係人口の循環が生まれる。
梅の不作が続く中、地域は持続可能な仕組みづくりを迫られている。収穫支援ワーケーションは、雇用の恒常的な不足を一挙に解決する万能薬ではないが、繁忙期のボトルネック解消と交流の基盤づくりには確かな効果がある。今後は、農繁期以外の剪定・施肥・資材片付けなど年間作業への拡張、技能に応じた役割分担、受け入れ農家間のマッチング精度向上などが論点となるだろう。みなべ町の現場で積み上がる実践は、県内の他産地や他作目にも応用可能だ。地域の要となる梅産業の底力を取り戻すため、今季の取り組みの検証と次期への改善が待たれる。