高松市福岡町の旧香川県立体育館について、高松地方裁判所は、近隣住民が解体工事の中止を求めた仮処分の申し立てを却下した。裁判所は、建物が高い建築的・文化的価値を持つとの見方を示す一方、申立人が主張した眺望や生活環境への利益について、法的に保護される利益と認めることはできないと判断した。
決定は30日、申立人側に伝えられた。今回の手続きは、通常の裁判を待つ間に回復が難しい不利益が生じるおそれがある場合、暫定的な措置を求める民事保全法上の仮処分だった。旧体育館の周辺住民は、建物の存在によって得られる景観や生活環境上の利益が損なわれるとして、解体を止めるよう申し立てていた。
解体工事は10月15日に再開
旧県立体育館をめぐっては、民間資金を活用して建物を再生しようとする団体が、2025年11月、解体工事にかかる費用の支出差し止めを求める住民訴訟を起こしている。これとは別に、近隣住民が今回の仮処分を申し立てた。香川県は2026年4月に解体工事に着手し、建物の耐震性が争点となったことから、裁判所の要請を受けて工事を1カ月間止めた。
県は耐震性に関する鑑定結果を待たず、10月15日から解体作業を再開した。工事の進行をめぐっては、建物を残して再生できるかどうかという技術面の論点と、県が解体に伴って支出する公金の適法性が、別々の法的手続きで問われている。
| 項目 | 確認されている状況 |
|---|---|
| 解体着手 | 2026年4月 |
| 工事の再開 | 10月15日 |
| 仮処分申請 | 近隣住民が景観・生活環境上の利益の保全を求めた |
| 別の住民訴訟 | 2025年11月に解体費用の支出差し止めを提起 |
裁判長が「解体の当否」と切り分け
今回の決定で裁判所が示したのは、あくまで仮処分申請の要件に関する判断だ。決定文は、旧体育館について建築的、文化的価値があるとしながらも、眺望の対象として不特定多数の人を呼び込む建物として社会的に認知されているとはいえないと指摘した。そのうえで、建物が残ることによって申立人が受ける眺望上、生活環境上の利益は、法的保護の対象とまでは認められないとした。
「解体工事の当否等について判断したものではない」
裁判長は決定の末尾で、今回の申し立てが解体そのものの是非を判断したものではないと明記した。さらに、別に進む住民訴訟について、原告側の現地調査を踏まえた鑑定に向けた検討と準備が進んでいるとし、解体の予定も考慮しながら、できる限り迅速に手続きを進めることが重要だとの考えを示した。
今後は住民訴訟の審理が焦点
申立人側に同行した旧香川県立体育館再生委員会の長田慶太委員長は、仮処分が認められなかったことへの失望を示した一方、決定後半の記述については、住民訴訟での審理に期待をつなぐ内容とも受け止められるとの趣旨を述べた。今回の申し立てと住民訴訟の双方で代理人を務める西山喬祐弁護士も、裁判所が解体工事の当否に問題意識を持っていることがうかがえるとの見解を示している。
一方、香川県は、今回の決定について県の主張が認められたものと受け止めているとコメントした。県は、複数の安全面のリスクをできるだけ早く取り除くため、今後も解体工事を続けるとしている。
- 仮処分申請は、旧体育館の景観・生活環境上の利益を理由に解体停止を求めたもの。
- 高松地裁は申請を退けたが、解体の是非そのものを判断したわけではないと整理した。
- 解体費用の公金支出や建物の耐震性をめぐる住民訴訟は、別の手続きとして続いている。
高松市内で長く存在してきた旧体育館を残すのか、解体して安全上の懸念を取り除くのか。今回の決定によって解体工事を止める仮処分の道は閉じられたが、耐震性の評価や公金支出の適法性を争う住民訴訟の行方は、建物の最終的な扱いに関わる。県が工事を進める一方で、裁判所が鑑定を含む今後の審理をどのように進めるかが、地域の関心となる。