増える観光客、足りない客室
2025年、日本を訪れた外国人観光客は約4,268万人に達し、過去最多を更新した。一方で観光地や都市部では宿泊施設が不足し、観光振興の障害になっている。こうした状況を受け、北海道内では空き家を改装して民泊として稼働させる動きが目立ってきた。札幌の運営会社、人里に残る古民家、観光地近郊のマンション一室など、形は多様だが共通する狙いは「既存の住宅ストックを観光資源に変える」ことにある。
現場の取り組みと連携の形
札幌では民泊の運営代行を行う企業が築年数のあるマンションを改装し、運営物件を増やしている。担当者は改装で利用者の第一印象を上げることに力を入れ、道内で関わる客室数は約160室にのぼるという。新ひだか町では空き家だったマンションの一室を改装し、宿泊客に対して近隣のホテルが朝食を提供する連携を実施。1室あるいは1棟を使う料金設定や、ホテル朝食とのセットで地域全体の受け入れ力を補う仕組みだ。
多様な商品設計 — 一棟貸しから朝食連携まで
道内の事例は用途に応じた商品設計が進む。美瑛町では築60年の古民家を改装し、一棟貸しとして提供する事例がある。滞在そのものを価値化するケースが多く、宿泊料金や利用形態も多岐にわたる。新ひだか町の改装物件は1室あたりの料金が1泊11,000円からで、2人目以降は1人あたり5,000円を追加する形で、最大4人利用で合計2万6,000円になる設定が紹介されている。宿泊の付加価値として、地元ホテルの朝食を提供する取り組みは、観光客の満足度向上と地域の宿泊キャパシティ拡大の両立を目指す試みだ。
現場が語る期待と実務上の工夫
民泊の運営側は、古い建物でも内装や設備を工夫して「来訪者が驚く」空間をつくることで差別化を図る。運営会社の担当者は壁紙や機能性の向上など細部に手を入れることで客室価値を高める工夫を明かしている。また、ホテルと連携して朝食を提供するモデルは、民泊側にとっては宿泊サービスの品質保証になり、ホテル側には外部資源(民泊)を活用した稼働補助という利点がある。
「民泊の人が鍵をお見せしたらホテルの朝食を召し上がることができる」(静内エクリプスホテルの担当者)
住民・地域にもたらす影響と留意点
空き家を民泊に転用する動きは、地域経済への波及効果が期待される。観光客が増えれば飲食・土産品・交通といった関連消費が拡大し、雇用にもつながり得る。とりわけ宿泊難が顕在化している地方では、受け入れ余地を増やす即効性のある施策になる。
ただし一方で注意点もある。安全管理・消防対策、近隣住民とのトラブル防止、ライフラインの維持や清掃・管理の仕組み、税制・許認可の整理など、住宅を宿泊施設に転換する際の実務負担は軽視できない。運営代行業者や自治体の支援、地域ルールの整備が並行して求められる。
利用者が知っておくべき実用情報
- 料金設定は物件により幅がある。事例の一つでは1室1泊が11,000円から、人数追加で加算される形。
- 朝食連携など、近隣ホテルのサービスを組み合わせたプランも増えているため、予約時に提供内容を確認すること。
- 古民家や一棟貸しは設備がホテルと異なるため、暖房・冷房やバス・トイレの利用方法を事前に確認することが安全で快適な滞在につながる。
| 地域 | 活用例 | 料金の目安 |
|---|---|---|
| 札幌 | 築年数のあるマンションを改装、運営代行で複数室を管理 | 物件により差異(運営会社は約160室を関与) |
| 新ひだか町 | 空き家マンションの一室を改装、近隣ホテルと朝食連携 | 1室1泊11,000円~(人数追加は別料金) |
| 美瑛町 | 築60年の古民家を一棟貸しとして提供 | 物件ごとに設定 |
展望と課題整理
空き家を活かす取り組みは、宿泊不足の即効的な緩和策として期待される。ただし長期的には、受け入れの質を確保するためのルール整備、地域住民との合意形成、運営のプロフェッショナル化が必要だ。自治体の支援策や登録制度、トラブル対応フローの整備など、公的な枠組みが追いつくことが、持続可能な受け入れ体制の鍵になる。
観光需要が高まる現在、空き家を「泊まれる資源」に変える試みは地域の再生につながる潜在力を持つ。だが、その実現は現場の柔軟な発想と、住民・事業者・行政が補完し合う仕組み作りの両輪があってこそだ。
(佐藤 大地・北海道担当記者)