環境 草津市 滋賀県

シーボルトが入手したトキ剥製、200年ぶりに滋賀で里帰り

江戸時代後期にシーボルトが滋賀で購入しオランダへ渡ったトキの剥製が、県立琵琶湖博物館で7月18日から展示される。新種記載の基になった重要標本の里帰りは、地域の自然史と保全理解を深める契機となる。

シーボルトが入手したトキ剥製、200年ぶりに滋賀で里帰り
©イラスト AI生成 :阿部 竜也/プレスリリースジェーピー

江戸期の標本が滋賀へ戻る意味

ドイツ人医師・博物学者のシーボルト(1796–1866)が江戸時代後期に滋賀で手に入れ、長年オランダの博物館で保管されていたトキの剥製(はくせい)が、200年ぶりに滋賀県に「里帰り」し、県立琵琶湖博物館(草津市)で7月18日から企画展示されることが明らかになった。これらの標本は、学名の決定に用いられた重要な資料であり、日本固有の鳥類であるトキ(現在は特別天然記念物)の歴史と、地域環境の変遷を考える上で重みを持つ。

ナチュラリス生物多様性センター(旧ライデン自然史博物館)所蔵の標本で、琵琶湖博物館は開館30年を機に貸し出しを受け、11月23日まで企画展で公開する予定だ。川瀬成吾・主任学芸員は、剥製が首周りに繁殖期特有の灰色を帯びていることを指摘し、当時の個体や生態に関する手がかりを示すと説明している。

史料としての価値と学名の由来

シーボルトは1826年、江戸へ向かう道中で日本各地の動植物を収集し、旧ライデン館などに送り、多くの標本を欧州へ紹介した。トキの標本もそのひとつで、彼が記した紀行文には甲賀(当時の大野、現・甲賀市)で「二羽のトキ」を買い求めた記述が残る。

「大野(現・滋賀県甲賀市)で剥製を買い求めた。二羽のトキで、赤いバラ色の翼をもつのと、白い羽があるものだった。ここいらの田畑によく姿をみせる」

これら標本は、トキが国際的に新種として認定される際に使用され、当初の学名「アイビス・ニッポン」が付与された後、現在の学名ニッポニア・ニッポンへと改称された。学術的にはタイプ標本や初期収集記録が、種の記載史や分布史を追うために重要である。

現状のトキと地域への示唆

現在、日本の野生下でのトキは佐渡島を中心に人工移入や保護繁殖の取り組みにより推定約470羽が確認されているが、滋賀県内で自然繁殖は確認されていない。環境省佐渡自然保護官事務所によれば、過去の乱獲や生息地の改変によって日本在来のトキは1981年に野生で姿を消した経緯がある。

今回の剥製展示は、過去の生物相と人間活動の関わりを地域住民が改めて認識する機会となる。琵琶湖周辺の里山や水田がトキの好む生息環境であったことに触れることで、湿地・水田管理や生物多様性保全の意義を見直す端緒になり得る。

展示の実務情報と教育的意義

  • 会期:7月18日〜11月23日(琵琶湖博物館の企画展として展示)
  • 会場:県立琵琶湖博物館(草津市)
  • 所蔵:ナチュラリス生物多様性センター(オランダ)からの貸出

博物館側は標本展示を通じて、当時の自然環境や収集史を伝える解説を行う見込みだ。学校や教育機関にとっては、地域の自然史を学ぶ教材として活用できる。加えて、外部からの来訪者が増えることで博物館や周辺施設、観光面での波及効果も期待される。

専門家の見解と地域的文脈

近畿大学名誉教授の細谷和海氏(保全分類学)は、シーボルトが日本の動植物を欧州へ紹介した活動を踏まえ、「トキは欧州では見られない鳥で、シーボルトにとっても特別な剥製だったのではないか」と述べ、標本が持つ歴史的な価値を指摘する。シーボルトが国外に持ち出した標本群は、日本の自然史研究の基礎資料として国際的に重要な意味を持つ。

項目内容
所蔵機関ナチュラリス生物多様性センター(オランダ)
展示期間7月18日〜11月23日(琵琶湖博物館)
学術的意義トキの新種認定時に用いられた重要標本

地域住民への影響と今後の課題

今回の展示は文化遺産としての価値だけでなく、地域住民にとって里山・水田の保全意識を喚起する契機となる。琵琶湖周辺の生息地再生や湿地保全は、トキのような種の復元を考える際に重要な要素であり、博物館展示はその議論を広げるきっかけとなるだろう。一方で、過去の標本が国外に流出した経緯や、収集当時の記録の扱いについては、歴史的背景を正確に伝える配慮も求められる。

展示は、古記録と現代の保全活動を結びつける場となる。訪れる市民や教育機関には、展示解説や関連講座を通じて、過去の生物多様性と現在の保全の接点を理解してもらいたい。

(取材・文=阿部 竜也 滋賀県担当)

阿部 竜也
阿部 AI編集 滋賀県担当記者 オンライン

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