地域の“顔が見える”関係性を軸に
東京から奥出雲町へ移住し、現在は地域おこし協力隊員、スナックのママ、そして病院の広報支援を行う会社の経営者という三つの役割を担う安田彩夏さん(31)。約4年前の移住後、理学療法士としての経験を地域づくりに生かす形で活動の幅を広げてきた。町内の古民家を管理するコワーキング拠点の運営や、起業を志す人へのコーディネート業務など、役割は多岐にわたるが、いずれも地域のつながりを深めることを目的としている。
「都会にはない顔が見える関係性が心地よい」
安田さんはこう語る。都会に比べて互いに声を掛け合い支え合う暮らしが根付く奥出雲で、暮らしと仕事を重ねる中で見えてきた課題と可能性を事業や場づくりに結びつけている。
三つの活動が地域に与える具体的な影響
- 古民家オフィスの管理:町が整備した古民家を改装した「古民家オフィス みらいと奥出雲」の管理人を務め、コワーキングやシェアオフィスとして起業者やU・Iターン者の活動を支える場を提供している。
- 起業支援のコーディネート:町内の創業希望者と継続的に対話し、起業のスタートアップを後押しする役割を担っている。
- 医療広報の事業化:2025年8月に病院や医療系企業の広報を支援する事業を起業し、医療職の魅力発信を進めている。
- 居場所づくりとしてのスナック運営:2025年9月から町内で週3日営業のスナックを始め、幅広い世代が集まる場を提供している。
これらの活動はそれぞれ独立しているわけではなく、互いに補完し合っている。例えば、コワーキングで出会った人がスナックの常連になり、医療分野の発信が地域内外の理解を深めるなど、日常の交流を通じたネットワーク形成が進んでいる。
移住の経緯と地域での試行錯誤
安田さんはもともと福島県出身で、父の転勤で幼少期から東京で育った。大学で理学療法士の資格を取得後、都内で医療職として働いた経験がある。地域との接点は、島根リハビリテーション学院でのキャリア教育の授業をきっかけに生まれた。町を巡るうちに「人が生き生きしている」姿に惹かれ、2022年11月に移住を決めた。
移住直後は起業を目指したが実現せず、アルバイトを掛け持ちして生活をつないだ時期も経験した。地域内のつながりから地域おこし協力隊員を勧められ、2024年4月に委嘱を受けた。協力隊としては、起業支援のコーディネーターや拠点管理など、地域の資源をつなぐ仕事を続けている。
住民にとっての利点と今後の課題
住民にとって安田さんの活動がもたらす効果は明確だ。コワーキングやスナックといった“人が集まる場”は、孤立を緩和し高齢者の見守りや若年層の交流機会を増やす。起業支援は新たな事業や雇用を生む可能性があり、医療広報は地域医療の理解や人材確保につながる。
一方で、継続性と負担の分散は課題として残る。個人の多役割に依存する形は短期的には効果的でも、長期的には人材の燃え尽きや事業の脆弱化を招きかねない。持続可能な体制をつくるためには、行政や地元事業者、外部支援を巻き込んだ仕組み作りが重要だ。
| 年度 | 主な出来事 |
|---|---|
| 2018年 | 大学卒業後、理学療法士として就労 |
| 2022年11月 | 奥出雲町へ移住 |
| 2024年4月 | 地域おこし協力隊員に委嘱 |
| 2025年8月 | 病院広報を担う会社を起業 |
| 2025年9月 | スナック経営を開始(木金土営業) |
行政・地域の支援をどう結びつけるか
安田さんの取り組みは、個人の挑戦が地域資源を活性化する一例だが、似た事例を増やすには支援制度の柔軟化が求められる。具体的には、以下の点が重要だ。
- 多様な働き方に対応する補助や研修の整備
- 居場所やコワーキングの運営を支える運営費補助やノウハウ提供
- 地域内外をつなぐ広報・人材マッチングの強化
奥出雲町のような「顔が見える関係性」が維持される地域では、こうした支援がはまりやすい。行政や地域団体が個人の多面的な活動を制度的に支えることができれば、移住者の定着や地域の自立度向上につながるだろう。
安田さんは地域の現場で複数の役割を通じ、日常的な交流と事業的な発信を両立させている。今後は個人に過度に負担がかからない持続可能な連携の模索が、地域全体の活力を左右する。
(村上 彩 取材・文)