夏の猛暑が農作物の生育に影響を及ぼすなか、広島県府中市上下町のキャベツ畑で、畝を覆う農業用資材を従来のビニールから紙へ切り替える取り組みが進められている。紙製の「サステナマルチ」を試験的に使った畑では、キャベツが重量感のある仕上がりとなり、地面の温度を約5度下げる効果も確認された。気温上昇への対応に加え、収穫後の資材回収や雑草処理の負担を減らす手段として、異常気象に直面する農業現場の新たな選択肢になっている。
猛暑で生育不良、紙の資材を導入
現場は標高340メートルに位置し、キャベツを栽培する畑の広さは15アール。生産者は、近年の天候の極端化によって、キャベツの中身が十分に詰まらないなどの生育不良が起きやすくなっているとして、ことし新しい被覆資材を試した。
農業用マルチは、畝の表面を覆って土壌の状態を保つ資材だ。一般的な黒色のビニール製品は、土の乾燥や雑草の発生を抑えるために使われてきた。一方、今回導入した紙製品は、見た目や手触りはコピー用紙に近いものの、畑で使える厚みを備えているという。収穫を終えた後に回収する必要がなく、時間の経過とともに土に還り、肥料になる点が特徴とされる。
「安定的に生育させるには収穫のタイミングをみないといけない。マルチを変えたり、新しい肥料を使ったり、いろいろ挑戦しないといけない」
地温を抑え、作業の省力化にも効果
紙製マルチによる効果の一つが、夏場の地温上昇を抑えることだ。水分が蒸発する際に周囲の熱を奪う気化熱の作用を利用し、地面の温度が従来より約5度低くなる効果が出ている。地表付近の過度な高温を抑えることで、作物の根の周辺環境を保ち、生育への影響を小さくすることが期待される。
また、資材に厚みがあるため、畝をしっかり覆って雑草が生えにくくなるという。生産者は、雑草を抜いたり処理したりする作業が減り、作業効率も上がったと説明している。猛暑のなかで長時間の農作業を続ける負担を抑える観点からも、除草作業の削減は現場にとって重要な意味を持つ。
- 地面の温度を約5度下げる効果が出ている
- 雑草の発生を抑え、除草や処理の作業を軽減する
- 収穫後の回収が不要で、土に還り肥料となる
- 虫食いなど、猛暑の影響とみられる問題は残っている
石油由来資材の供給不安も背景に
紙製資材への関心を高めているのは、畑の温度対策だけではない。現在広く使われているビニール製マルチは、石油製品であるナフサを原材料とする。取材では、中東情勢の影響によるナフサ不足を背景に、紙製マルチの売り上げが前年の3倍に達した月もあると伝えられている。天候への対応と資材の安定調達を同時に考えなければならない状況が、農業の現場に生じている。
| 項目 | 確認された内容 |
|---|---|
| 栽培作物 | キャベツ |
| 畑の広さ | 15アール |
| 標高 | 340メートル |
| 地温への効果 | 約5度低下 |
| 紙製マルチの売り上げ | 前年の3倍となった月がある |
一つの資材で解決しない課題
紙製マルチを使った畑では、キャベツは手際よく収穫され、実が詰まった状態に仕上がった。生産者は、天候の影響で中身が空洞化しやすいことを課題として挙げたうえで、今回の収穫物についてはたたいた際に良い音がするほど充実していると評価している。ただし、今回の資材導入によって、夏の高温がもたらす問題のすべてが解消されたわけではない。
取材では、夏の暑さの影響が残っているとみられる虫食いの被害も伝えられている。気温を抑え、雑草を減らせても、害虫や収穫時期、生育のばらつきなど別の課題には個別の対応が必要になる。生産者は、マルチの変更や新しい肥料の使用などを組み合わせながら、安定した生育を目指している。
今回の取り組みは、広島県府中市の一つの生産現場で行われた試験的な導入だが、異常気象が農業資材の選択や作業方法まで変えていることを示している。高温への適応、資材の供給安定、廃棄物の削減を一度に実現できるかは、作物や土壌、地域の気象条件によって検証が必要だ。紙製マルチが今後どの範囲で活用できるのか、収量や品質への影響を含めた継続的な確認が求められる。