目標は2035年に外国人宿泊者数100万人
三重県は、訪日外国人客(インバウンド)の回復と長期的な拡大を目指す「みえインバウンド誘客計画」を公表した。計画期間は2026年度から2031年度を当面の枠組みとしつつ、最終目標として2035年に延べ宿泊者数100万人を掲げている。現状の数字(2025年は約37.2万人)と比較すると、約2.7倍の大幅増を想定する目標設定だ。
県は計画の背景に、コロナ禍からの回復状況に地域差があることと、伊勢神宮の式年遷宮を契機に生じる観光需要の変動を挙げる。県の資料によれば、観光庁の統計で19年を100%とした場合、三重県のインバウンド戻り率は2024年時点で62.0%と低迷し、2025年の速報値で95.7%まで回復したとはいえ、全国順位は依然低位にとどまっている。
県は計画策定にあたり、昨年10月から今年6月までに5回の有識者会議を開き、産学官で議論を重ねた。計画の基本戦略は三本柱で構成されている。
- 観光インフラの充実 — 交通ネットワークの検討や施設整備を通じてアクセス改善を図る。
- 戦略的マーケティング — 海外での継続的なプロモーションと重点市場に対するセールス活動を強化する。
- 取り組みの充実・継続 — MICEや国際イベントの誘致など、需要を喚起する継続的施策を展開する。
「10年先を見据えて手を打たないといけない。県の主要な産業として観光が持続できるよう、今から着手したい」
この発言は県海外誘客課の担当者が有識者会議で示した危機感を端的に表している。伊勢神宮を中心に国内旅行者の増加は見込めるものの、遷宮後の反動で観光消費が縮小する可能性があると県は分析しており、その変動をインバウンドの拡大で補う狙いがある。
重点市場と取組分野
計画は海外市場ごとに重点エリアを設定した。すぐに継続的なセールスを行う「重点市場」として、台湾、タイ、シンガポール、フランス、ドイツ、米国の6か国・地域を挙げる。将来的な拡大候補としては、インドネシアとインドを「開拓市場」に位置づけている。
狙いは、多様な国からの旅行者を増やすことで観光客の季節偏在や国内需要の落ち込みを緩和することにある。県はまた、交通インフラや観光資源の磨き上げだけでなく、国際会議・展示会(MICE)の誘致による通年型の需要創出も重点施策に掲げている。具体例としては、リニア中央新幹線開業に伴う周辺交通ネットワークの再編検討や、鈴鹿サーキットで開催されるF1日本グランプリを活用した認知度向上が挙げられている。
| 項目 | 現状(2025年) | 中期目標(2031年) | 長期目標(2035年) |
|---|---|---|---|
| 延べ外国人宿泊者数 | 約37.2万人 | 75万人(目標) | 100万人(目標) |
地域への影響と実務的なポイント
この計画は観光関連事業者、宿泊業、飲食、小売、交通事業者に直接的な影響を与える。具体的には次の点が挙げられる。
- 宿泊需要の増加に備えた施設の稼働率向上や多言語対応、決済環境の改善が求められる。
- MICE誘致や国際イベントによる平準化で、季節偏重の解消や雇用の安定化が期待されるが、同時に受け入れ体制整備が必要となる。
- 交通ネットワークの改善が進めば、地域間移動がしやすくなり、観光地の周遊性が高まることで観光消費の県内循環が見込まれる。
県内自治体や観光事業者にとっては、訪日客の国籍や嗜好に応じた商品開発、情報発信の強化、多言語表示・案内の整備、外貨決済やQR決済対応の推進などが喫緊の課題だ。とくに低価格帯ではなく体験型・高付加価値の滞在商品を用意することで、旅行単価の引き上げを図る戦略が重要になる。
住民視点での留意点
観光客増加は地域経済を活性化する一方で、生活環境やインフラに負担を与える可能性もある。交通混雑、騒音、ごみ問題などの対策を事前に検討し、地域住民との合意形成を図ることが必要だ。県は計画の着実な実行に向けて、地域と事業者、行政の連携や、持続可能な観光を意識した資源管理を強調している。
今後のポイントは、計画で示された目標を単なる数値目標で終わらせず、具体的な投資と制度設計、現場の受け入れ力強化につなげられるかどうかにかかっている。観光を支える交通や宿泊、飲食などの基盤整備が進めば、県内経済の底上げにつながる可能性がある一方、受け入れ側の準備不足は観光客の満足度低下を招き得る。県は今後、実践的な施策の詳細を詰める必要がある。
三重県の観光産業を巡る動向は、地域雇用や中小企業の業績にも直結する。県内事業者は計画を踏まえた販路拡大やサービス改善、人材育成など具体的な対応を進めることが求められる。
(橋本 奈々)