千葉から越境、茨城で初の捕獲――農家の警戒高まる
本土で特異な分布を示すシカ科の特定外来生物「キョン」が、千葉県から周辺県へと生息域を広げる動きが続いている。5月31日、茨城県古河市のビニールハウス内で体高約40センチのオス個体が捕獲され、県内での捕獲は初めて確認された。捕獲された個体は農園で栽培していたブドウを食べていたとされ、農家側の被害が現実化した形だ。
キョンは中国や台湾に主に生息し、国内では千葉県が本土での主要な生息地となっている。研究では千葉県内の推定生息数が2006年度の約1万3264頭から、2025年度に約10万5700頭へと増加したとされ、近年は生息域の拡大に伴い農業被害も報告されている。茨城県内では2017年に神栖市で死体が見つかり、2022年以降は生きた個体の目撃などが増加。今回の捕獲を含め、2026年度の目撃情報は7月15日時点で29件に達している。
- 茨城県古河市で5月31日に県内初のキョン捕獲(オス、体高約40cm)。
- 県は24年度から目撃情報に対して報奨金制度を実施:目撃で2,000円、捕獲で3万円。
- 県はキョン用のわなを購入し、市町村に貸与するなど早期把握の体制を整備。
専門家は、利根川や江戸川などの河川を渡るか橋を利用して越境した可能性が高いと指摘する。国立研究開発法人森林総合研究所(茨城)や農研機構などが参加するプロジェクトでは、メス個体の早期発見や行動把握に重点を置いた研究が進められており、河川の水や大気中の環境DNAを解析してキョンの痕跡を探す取り組みも行われている。
「まずいなと思った」
古河市で捕獲された現場の農家は、被害の深刻さを懸念している。茨城は農業が盛んな地域であり、キョンが定着・繁殖すればトマトや果物、花など広範な農作物に被害が及ぶ危険性がある。千葉県内では近年の農業被害額が年間約500万~1,000万円と見積もられており、仮に茨城県内で個体数が増加すれば経済的な影響はより大きくなる可能性がある。
現時点で千葉県外で確認された個体の多くはオスのみで、茨城・埼玉双方ともに繁殖・定着の証拠はまだ出ていない。ただし研究者や行政は放置すれば将来的に定着が起きるリスクが高いと考え、早期発見と防除を急いでいる。茨城県は24年度から目撃や捕獲に報奨金を設定し、今年5月にはキョン捕獲用のわなを10個購入。市町村が迅速に使用できるよう貸し出す体制を整えた。
専門家は、市民の通報体制強化や流入経路の把握と防止策の組み合わせを求める。岐阜大学の外来種問題に詳しい研究者は、早期発見・防除が外来種対策の鍵であり、市民向けの通報アプリ活用や侵入防止柵、捕獲わなの設置などの「押し戻す対策」が必要だと指摘している。
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 県内初捕獲 | 古河市で5月31日(オス、体高約40cm) |
| 目撃件数(2026年7月15日時点) | 29件(県内) |
| 千葉県の推定生息数(2006→2025年度) | 約1万3264頭 → 約10万5700頭 |
| 県の報奨金 | 目撃2,000円、捕獲30,000円 |
住民・農家が取るべき実用的な対応は次のとおりだ。まず、不審な動物を見かけた際は写真や位置情報を確保して速やかに市町村や県の通報窓口に連絡すること。誤認を避けるため、側面や顔の特徴が分かる撮影が有用だ。次に、果樹園やビニールハウス周辺では夜間の侵入を想定した防護対策(網や柵の点検、出入口の施錠など)を徹底すること。地域では、わな設置や捕獲に関する自治体からの情報提供に留意し、報奨制度の活用や近隣との連携を図ることが被害抑止につながる。
茨城県は今後も目撃情報の収集やわなの配備、研究機関との連携を強化するとみられる。農業被害や生態系への影響を抑えるためには、住民の協力による早期発見と、計画的な防除措置の速やかな実施が不可欠だ。県や関係機関は、越境拡大の経路特定と、メス個体の有無を含めた生息状況の把握を最優先課題として取り組んでいる。