町内唯一の給油所が継承、地域の生活基盤を維持
和歌山県古座川町高池にある創業1972年のガソリンスタンド「ENEOS 古座川サービス・ステーション」が、後継者不在による廃業の危機を受け、町内で生花店を営む須川陽介さん(42)に事業継承されることになった。町内で唯一の給油所を巡る今回の決定は、住民の日常生活や地域の移動利便性に直結する重要な出来事だ。
このスタンドは長年、東豊石油店(代表・井筒眞一郎)が運営してきた。しかし近年の経営環境悪化や少子高齢化の影響で後継者が見つからず、同業者の廃業が相次ぐ中で存続が懸念されていた。井筒代表側が事業承継先として須川さんに打診し、須川さんがこれを受け入れた形だ。
「私を含め、町民の多くが、このガソリンスタンドを使っているので、なくなると困る人が多いと思った」
須川さんの発言は、事業の公共的側面をよく表している。古座川町は面積約294平方キロのうち約96%が森林で、1956年の合併当時は約1万人いた人口が、直近では2,181人(1,292世帯)にまで落ち込んでおり、過疎化と高齢化が進行している。そうしたなか、町内唯一の給油所が失われれば、地域住民は隣接する串本町側の給油所まで移動しなければならず、高齢者の移動負担は増す。
雇用維持と運営体制、営業時間
継承後の運営については、スタンドで働いていた正社員2人とパート1人の計3人が引き続き雇用され、須川さんを含む4人体制で対応する。営業時間は平日・土曜が午前7時〜午後6時、日曜は午前7時〜正午。年始の1月1日・2日を除き原則無休での営業を続けるという。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 営業時間 | 午前7時〜午後6時(平日・土曜)、日曜は午前7時〜正午 |
| 休業日 | 原則なし(1月1日、2日を除く) |
| 従業員 | 正社員2人、パート1人継続、経営者含め計4人 |
運営継続のため、須川さんは県の事業継承・引継ぎ支援センター(和歌山市)からの支援を受け、株式取得などに必要な認定を得たうえで、日本政策金融公庫からの融資も活用して資金調達を行ったという。公的支援を活用した形での事業承継は、地方の小規模事業が抱える資金面のハードルを下げる好例と言える。
地域への影響と今後の課題
給油所の存続は単なる燃料供給にとどまらず、次のような地域暮らしの基盤維持に寄与する。
- 高齢者や通勤者の移動手段確保:遠距離移動の必要性を減らすことで生活負担を軽減する。
- 災害時の燃料供給拠点としての役割:緊急時の車両稼働や発電機等の燃料確保が可能となる。
- 雇用の維持:地元の雇用機会が保たれ、地域経済の下支えとなる。
一方で、須川さん自身も「今後、町の人口はますます減り、事業の継続は厳しくなっていく可能性が高い」と述べており、継続経営には課題も残る。需要の減少、燃料価格の変動、人手確保の難しさといった外部要因に加え、収益性確保のために提供サービスの多角化が求められる。
経営の多角化と地域連携の方向性
須川さんは継承後、将来的な事業展開の可能性にも触れている。地元商店としての強みを生かし、次のような施策が考えられる。
- 簡易的な日用品や地域特産品の販売コーナーの開設
- 整備やタイヤ交換など車両関連サービスの拡充
- 観光客向けの情報提供や休憩スペースの設置
こうした取り組みは単独の事業者だけでなく、町役場や観光協会、周辺事業者との連携によって効果が高まる。過疎地では個別事業の維持が困難な場合でも、複数主体の協力で地域インフラを守る事例が増えている。
住民目線での意義と今後の見通し
古座川町の規模や地理的条件を考えれば、町内で給油所を確保する意義は大きい。日常生活で車を利用する住民の負担軽減はもちろん、救急や災害時の対応力にも寄与する。加えて、事業承継が成功すれば、他の地域事業にとっても継承のモデルケースとなり得る。
ただし、継続には経営努力と地域の支援が欠かせない。須川さんは「事業の新たな展開も考えていきたい」と述べ、経営の多角化や地域連携による安定化を見据えている。今後は、実際の運営状況や地域ニーズに応じたサービス改良が鍵を握るだろう。
以上、古座川町の今回の事業継承は、過疎化が進む地域にとって小さくない朗報だ。給油所という生活インフラを維持するために、今後どのような施策と連携が進むかが注目される。
取材・文 岡田 美穂(プレスリリースジェーピー、和歌山県担当記者)