歴史的建物を活かした“古民家銭湯”が地域拠点に
世界遺産・高野山のふもと、和歌山県橋本市高野口町で、明治期に建てられた木造平屋の邸宅を改修した銭湯「高野口乃湯」が令和6年に開業した。玄関や邸宅部分は明治時代の構造を残しつつ、浴場部分とサウナ、露天風呂は新築で整備されており、レトロな佇まいと現代的な温浴設備が融合した空間が来訪者を迎える。
もともと約130年前に建てられた元村長宅の重厚な梁や広い三和土(たたき)の玄関は保存され、当時の面影を伝える。運営関係者によれば、物件は市の空き家バンクに登録されており、地元企業が改修と転用に取り組んだという。改修にあたっては邸宅の特徴を損なわないことを重視し、内装や建物の骨組みを生かす形でリノベーションが行われた。
「市の空き家バンクに登録されていました。屋敷の特徴を損なわないようにリノベーションされています」
休憩スペースには、地場産業である高野口パイルを張り替えたソファを配置し、地域資源のPRにも配慮している。浴室には日本画などの陶板画が約30枚はめ込まれ、入浴しながら鑑賞できる仕立てだ。
水は和泉山脈の地下水、浴槽は深めの設計
浴槽には和泉山脈の地下水を使用しており、軟水でさらりとした肌ざわりが特徴だ。浴槽の深さは1.2メートルとしっかり首まで浸かって温まれる設計になっている。運営側は、水圧の効果による疲労回復が期待できるとしており、夏場には十分に温まった後の水風呂が好評だという。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 水源 | 和泉山脈の地下水(軟水) |
| 浴槽深さ | 約1.2メートル |
| 設備 | 浴場、新築のサウナ、露天風呂、休憩スペース |
サウナや番頭の役割、地域観光への期待
サウナは30分ごとにサウナストーンへ自動的に水を落とす「オートロウリュ式」を導入し、熱波を感じられる仕組みを採用している。初めて訪れた利用者からはサウナの好評が聞かれ、オリジナルTシャツの購入も見られた。
番頭を務める高瀬勇人さん(30)は、金沢出身で全国の銭湯を巡る経験を持ち、SNSで求人を知って地元企業からの募集に応じて転身した。高瀬さんは、子どものころに銭湯に連れて行ってもらった体験を理由に銭湯文化への愛着を語り、運営面でも来訪者の案内や地域との接点作りに携わっている。
- 歴史的建造物を保存しつつ施設として再生
- 地場産業である高野口パイルを活用した休憩空間で地域PR
- 和泉山脈の地下水と深めの浴槽で入浴効果を重視
地域にもたらす影響と今後の課題
高野口乃湯の開業は、地元の空き家を利活用した事例として注目される。鉄道の変遷や人口移動で参詣客が減少した地域において、歴史的資源と地場産業を組み合わせた拠点づくりは、地域のにぎわいを取り戻す試みだ。観光目的で訪れる人だけでなく、住民の憩いの場として定着すれば、周辺の飲食店や商店の利用促進にもつながる可能性がある。
一方で、持続可能な運営のためには利用者数の確保、周辺交通や駐車スペースの整備、地域住民との関係構築が課題となる。高野口町は高野山への玄関口としての歴史を持つが、観光客の流れをいかに取り込むかは今後の取り組み次第だ。地元企業の投資による運営は立ち上げ期の原動力となっているが、継続的に地域と連携したイベントやワークショップなどを通じ、住民と観光客の両方にとっての魅力を高める工夫が求められる。
利用を検討する住民や観光客に向けて実用的な情報としては、JR高野口駅前という立地から公共交通でのアクセスが容易である点、サウナや露天風呂など複数の施設を備えている点が挙げられる。家族連れや観光の途中に立ち寄ることも想定されるため、営業時間や料金、混雑状況の公表など利便性向上の情報発信が来訪の後押しになるだろう。
歴史ある建物の保存と地域活性化を両立させる試みとして、今後も注視したい事例だ。