喪失と向き合う「場」を自宅に設ける
兵庫県相生市の住宅脇に、回線のつながっていない黒電話を置いた木製ボックスが設置され、近隣住民や遠方からの訪問者の関心を集めている。この「風の電話」を設置したのは、今年2月に妻を亡くした三木豊さん(93)。妻の死後、生前の会話や共通の趣味であったコーラスを思い返す中で、テレビ番組を通じて「風の電話」の存在を知り、自宅敷地に設置を決めたという。
電話ボックスは木製で幅約1.2メートル、高さ約2メートル。内部にはゆっくり話せるように椅子が置かれ、入り口には「ご自由にお使いください」と掲示されている。ダイヤル式の黒電話をあえて用いることで、受話器に手を当てる行為の象徴性を重視した作りになっている。
訪れる人の思いを受け止める場所
三木さん自身も受話器を握って亡き妻に語りかけることがあり、話しかけた際「これからも話をしようね」と言うと、妻が「また好きなことをやっているね」と笑った気がしたと感じたという。この体験は三木さんにとって慰めとなり、「同じ喪失感に苦しむ人が少しでも楽になれたら」との思いからボックスを公開している。
「たくさんのつらい別れがある。この電話があれば、多くの苦しむ人の役に立つかもしれない」
設置の知らせは地域内だけでなく、淡路島や芦屋市など遠方の住民からも問い合わせが寄せられている。三木さんは訪問者に対して「声もかけず、勝手に使ってもらっていい。こちらから話しかけることもありません」と述べ、利用者のプライバシーと静かな時間を尊重する姿勢を示している。連絡先として三木さんの電話番号が公開されており、利用や問い合わせに応じるという。
「風の電話」の由来と広がり
「風の電話」は、岩手県大槌町に2010年に設置されたことが起源とされる。東日本大震災以降、遺族らが思いを吐露する場として多くの人が訪れ、その経験は絵本や映画の題材にもなった。回線のつながっていない電話を通じて、思いを風に託すという単純な仕組みだが、喪失や悲しみの表現を許容する場として評価されてきた。
地域社会への示唆と利用にあたっての留意点
今回の相生の事例は、高齢者自身が地域のために“心の居場所”を作った点で特色がある。個人宅での公開という形は、訪問者と設置者双方にとって利便性と同時に配慮すべき点を含む。今後の類似の取り組みを考える際に想定される点を整理すると、次の通りである。
- プライバシーの確保:個人宅での公開は、設置者の生活圏に訪問者が来るため、利用時間やマナーの周知が重要。
- 管理・安全面:施設の維持(雨風対策、施設の清掃)と訪問者の安全確保が必要。
- 地域連携:自治体や民間の相談窓口と連携することで、利用者が必要とする支援につなげる可能性がある。
自治体や地域の福祉団体が、こうした「場」をどのように支援・位置づけるかは今後の課題だ。単独の設置が孤立した存在にならないよう、地域の見守りや相談体制と連携する取り組みが考えられる。
利用を考える人への実用情報
相生市のこの「風の電話」は、三木さんの自宅敷地に設置されており、基本的に自由に利用できるという。問い合わせは三木さん(電話:0791-22-2921)へ。訪問前に連絡を取ることで、設置者の都合や周囲の状況を確認できるため、マナーを守った利用に資する。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設置者 | 三木豊さん(93) |
| 対象 | 自由利用(来訪者による) |
| 電話機 | ダイヤル式黒電話(回線なし) |
| ボックス寸法 | 幅約1.2m × 高さ約2m |
| 問い合わせ | 0791-22-2921(設置者) |
震災後の「風の電話」が示したように、物理的に派手なものではなくても、人が深い悲しみを吐き出せる「場所」は心理的な支えになり得る。相生の事例は、地域における小さなケアの在り方や、高齢者が主体的に社会に関わる一例として注目される。
今後、同様の取り組みを広げる際には、設置者の安全と尊厳、利用者の安心が両立する形でのルール作りが求められる。地域の行政、福祉団体、住民が連携し、静かな「語りの場」が長く維持されることが望まれる。