市発注工事で同一業者の複数落札が発生
川崎市が発注する公共工事の入札で、入札金額が同額となった参加者の中から抽選で落札者を決める「くじ引き」によって、同一の事業者が1日に複数の工事を落札する実態が明らかになった。建設業界や市議会からは、受注機会の偏りに対する懸念が出ている。
市の集計によれば、2025年度の契約案件または2026年度の契約準備案件の中で、同一の事業者が1日に2件以上を落札した事例は15件あった。さらに、同一業者が1週間で5件を落札した例や、別の業者が2日間で4件を落札した例も確認されている。
くじ引きの仕組みと運用上の盲点
川崎市は一般競争入札の一部業種や等級で「受注機会確保方式」を導入し、公告日や開札日、入札参加資格が同一の場合には1者あたりの落札件数を制限する仕組みを設けている。しかし、同一事業者が短期間に複数落札した15件は、同方式が適用されなかった案件だった。
適用除外となる主なパターンとしては、業種や等級がもともと対象外である場合や、同一の業種・等級でも地域要件、本社所在地、主観評価項目の点数、災害協定の有無など評価条件が案件ごとに異なる場合があることが挙げられる。結果として、見かけ上は同じような工種であっても制度適用に差が生じ、くじ引きで短期的に偏りが生じる余地が残っている。
関係者の声と広域的な状況
受注機会の確保は中小建設業者にとって経営基盤や人材育成に直結する問題であり、落札が「運」に左右される現状に不満を覚える声がある。川崎市議会の長谷川智一議員(みらい川崎市議会議員団)は6月の市議会で問題提起を行ったものの、市からの具体的な制度見直しに関する答弁は示されていない。
また、最低制限価格での入札が同額になり抽選に持ち込まれるケースは川崎市に限った話ではない。建通新聞社の調査では、2024年度のくじ引き率は神奈川県で65%、川崎市で50%、相模原市で40%、横須賀市で53%と報告されており、多くの自治体で高い水準にある。
住民・地域への影響
表面的には落札先が複数に集中しても工事自体は予定通り進むように見えるが、長期的には以下のような影響が懸念される。
- 地元の中小建設業者の受注機会が減少し、経営悪化や技術継承の停滞を招く可能性。
- 限られた事業者に工事が集中すると、競争性や価格形成の健全性が損なわれる恐れ。
- 地元業者の育成が進まないと災害時の応急対応能力や地域インフラ維持に支障が出るリスク。
制度の現状と検討課題
川崎市は既に本社所在地を南部と北部で分ける「南北入札」や、主観評価項目を用いたインセンティブ発注などの対策を導入している。しかし、これらの要件を適用してもくじ引きの競争率は高く、運による当選確率の偏りを完全に抑え切れていない。
今後の検討では、以下の点が課題となるだろう。
- 受注機会確保方式の適用範囲の見直し(業種・等級・参加資格の整合性の確保)。
- くじ引きが発生する要因(最低制限価格の設定や入札参加申請のあり方)の分析と対策。
- 中小事業者が安定して受注できる仕組みの導入(入札制度の再設計や分割発注の検討など)。
「すぐに解決策が見つかるような問題ではない」―川崎市議会で問題提起した長谷川智一議員の発言。
市は公平性や透明性を確保しつつ、地域の建設業基盤を維持・強化するバランスを求められている。受注の偏りが続けば、地域経済や防災力にとって負の影響を長期化させかねない。議会や関係団体との協議を重ね、適切な制度設計に向けた具体的な論点整理が急務だ。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 同一事業者が1日に2件以上落札した件数(25〜26年度) | 15件 |
| くじ引き率(2024年度、建通新聞社調査) | 神奈川県65%、川崎市50%、相模原市40%、横須賀市53% |
(取材・文 山口 恵)