都市部との接点を強化し“関係人口”を広げる包括連携
栃木県那須塩原市と東日本旅客鉄道(JR東日本)栃木事業本部は、関係人口の創出を目的とした包括連携協定を2026年7月30日に締結した。那須塩原市が掲げるパーパス「好きを、編む。」と、JR東日本の地域共創の方針が合致したことを契機に、両者は知見とネットワークを持ち寄って継続的な関係構築を図る。
協定は、観光や交流イベント、物流サービス、二地域居住支援、生活利便性向上のためのデジタル活用など、多面的な施策を想定している。市の説明によれば、都市部から那須塩原に「行きたくなる」「関わりたくなる」「住みたくなる」という三段階を念頭に置き、段階に応じた支援や誘引を進めるという。
「那須塩原市に関わる誰もが主語となり、それぞれの好きを編み合わせることで自分らしく生きられる場所を目指す」と市は協定の趣旨を説明している。
具体的な取り組みと期待される効果
- 地域プロモーションと産直市の開催、JRの列車荷物輸送サービス「はこビュン」を用いた地産品発信。
- 二地域居住やお試し移住の支援(副業・兼業人材の活用、交流拠点整備、「大人の休日倶楽部」会員向けの試験的な取り組みなど)。
- 生活利便性向上を目的としたDX推進(マイナンバーカード連携やご当地Suicaの導入検討、オンライン手続きの拡充など)。
これらにより、短期的には観光客や来訪者の増加、地場産品の販売拡大が期待され、中長期的には都心居住者との継続的な関係性の構築を通じて地域の担い手不足の緩和や移住定住につながることが見込まれる。那須塩原市は市制20周年を機にパーパスを掲げ、地域への関与を深める基盤づくりを進めてきた。今回の協定はその具体化の一環となる。
住民への影響と利用上のポイント
住民にとっての直接的なメリットは、地域産品の販路拡大やイベントを通じた交流機会の増加、物流や交通サービスの利便性向上だ。特に、列車を介した荷物輸送の活用は生産者や観光事業者の負担軽減と販路拡充に寄与する可能性がある。一方で、二地域居住や移住の促進は住宅や医療、教育などの地域資源の受け皿整備を伴うため、地域内の整備と調整が必要になる。
実務面では、以下が市民や事業者が押さえるべきポイントとなる。
| 項目 | 想定される変化・対応 |
|---|---|
| 産直市・販路 | JRと連携した輸送サービスで都市部への出品が容易に。参加事業者は出荷方法や包装の簡素化等を検討する必要がある。 |
| 二地域居住支援 | 住まい・なりわい・コミュニティ面での支援が拡充。受け入れ側は交流拠点や受け皿整備を急ぐ必要がある。 |
| DX導入 | 行政手続きのオンライン化や交通助成が検討対象。個人情報連携(マイナンバー等)に関する周知が重要。 |
課題と今後の視点
協定に伴う期待は大きいが、実効性を確保するにはいくつかの課題が残る。交流人口を実際の地域参加や担い手へと高めるためには継続的な関係構築、受け入れ体制の整備、生活基盤の確保が不可欠だ。特に若年層の定住を目指すのであれば、雇用機会や教育・医療の充実といった基礎条件の改善が求められる。
また、DXやご当地Suica等の導入に当たっては、操作性や利用者の理解、個人情報保護の観点からの丁寧な設計と説明が必要だ。物流サービスの活用は生産者のコスト構造や品質管理にも影響を与えるため、実装段階での現場とのすり合わせが重要となる。
今回の協定は、地域の魅力発信と生活利便性向上を同時に進める試みであり、短期的な誘客と中長期的な関係人口の定着の両方を目標に据えている。那須塩原市とJR東日本がそれぞれの強みを持ち寄り、段階的かつ実行力のある施策を展開できるかが鍵になる。
今後は具体的なスケジュールや対象事業の公表、参加事業者や市民向けの説明会等が想定される。関係人口創出の成否は、地域と都市を結ぶ日常的な接点をいかに設計するかにかかっているといえる。
(栃木県担当記者・小林 直樹)