企業と市場が同時に動く「猛暑対策」需要
今年の猛暑を背景に、熱中症対策や着用快適性を求める消費・企業需要が全国規模で高まっている。7月15~17日に都内で開かれた猛暑対策展には過去最多の190社が参加し、繊維をはじめ多様な業種が最新素材や製品を展示した。
こうした潮流に応え、富山・石川県内の繊維企業は遮熱性の高い合成皮革や吸湿性の高い和紙糸の衣料など、暑さ軽減をうたう新製品を続々と市場に出している。背景には企業側の対策ニーズの高まりと、行政面での規制・指導の強化がある。
行政・市場データが後押し
民間調査の試算では、熱中症予防製品の世界市場は2032年までに2兆円を超えるとされる。また、帝国データバンクの調査では企業の95.5%が熱中症対策を実施または検討していると回答しており、職場での熱中症対策義務化(厚生労働省の規則改正)も市場形成に影響を与えている。
- 展示会規模:出展約190社
- 企業調査:熱中症対策を実施・検討している企業は95.5%
- 市場予測:2032年までに熱中症予防製品市場は2兆円超
北陸企業の取り組みと反応
能美市の小松マテーレは遮熱素材や、赤外線吸収を抑えて表面温度上昇を抑える合成皮革「コマクール」などを出展したほか、抗菌防臭効果の高い銅繊維を使った製品も展示した。担当者は展示への出展意図について、熱く語っている。
「酷暑が社会問題となり、企業や自治体で熱中症対策や職場環境改善のニーズが広がっている。課題解決に貢献する製品を提案し、市場開拓につなげたい」
カジグループは和紙繊維を用いたビジネスTシャツを自社ブランドから発表。和紙とポリエステルを組み合わせた独自素材で吸放湿性と消臭性をうたっており、クラウドファンディング公開後約20分で191人の先行購入応募があったという。販売面では商業施設や自社オンラインストアでの取り扱いを拡大する計画だ。
中能登町の丸井織物は、水に濡らして使うことで気化熱の効果を期待する「クールポンチョ」を発売。子会社を通じた販売で、発売から1カ月足らずで600着超の注文が寄せられたと報告されている。宮本智行社長は、使用場面としてスポーツ観戦や音楽ライブなどを挙げ、気軽に使える携行性を重視している。
ゴールドウイン(小矢部市)は「ザ・ノース・フェイス」ブランドで速乾性に加え衣服内の熱放出を重視した生地設計を開発。接触冷感の感触にも配慮した素材を採用し、7月からTシャツを販売している。担当者は次のように語る。
「日本の夏は長期化し、猛暑が日常になっている。快適な着用感を支えたい」
住民・消費、事業者への影響
消費者の観点では、機能素材を使った衣料は単価が一般衣料より高めに設定される傾向があり、猛暑対策への支出が家計消費の一部を占める可能性がある。一方で、企業向けのユニフォームや作業着市場では、安全基準や規則に沿った導入が進むことでまとまった受注につながりやすい。とくに建設現場や物流、屋外作業が多い業種では職場環境改善の費用負担と労働生産性の関連が注目される。
地域経済の側面では、北陸の繊維業が新分野で存在感を示すことにより、地場産業の付加価値向上につながる可能性がある。小規模の工場や縫製業者にも新しい受注機会が生まれ、雇用の安定化や関連サービスの需要拡大が期待される。
展望と課題
需要拡大は追い風だが、価格競争や模倣製品の流通といったリスクもある。技術優位を維持するには素材開発力の強化、品質管理、そして流通チャネルの拡充が必要だ。また、消費者側の認知向上や適切な使用法の普及も重要になる。たとえば濡らして使用する製品では衛生管理や使用条件の説明が求められる。
さらに、事業拡大に伴う生産キャパシティの確保、人材育成、サプライチェーンの安定化が企業の持続的成長を左右する。行政の補助策や産学連携、異業種との協業といった支援策が地域産業の競争力維持に寄与するだろう。
| 項目 | 数値/状況 |
|---|---|
| 猛暑対策展 出展社数 | 約190社 |
| 企業の対策実施率(帝国データバンク) | 95.5% |
| 市場予測(世界規模、〜2032年) | 2兆円超 |
| カジグループ 先行購入 | 191人(約20分で) |
| 丸井織物 クールポンチョ受注 | 600着超(約1カ月) |
猛暑が常態化する中で、繊維業界は単なる衣料提供から熱環境改善への貢献という役割へと広がりつつある。北陸の企業群が示す素材開発力と素早い市場投入は、地域産業の新たな成長軸となる可能性が高い。今後は品質と安全性の両立、コスト競争力の確保、流通・販路の拡大が実効的な差別化策となるだろう。