尾道の“もう一つの顔”を船上で見る
本州と四国を結ぶ「しまなみ海道」の入口に位置する広島県尾道。観光地として知られる千光寺やレトロな商店街、そして瀬戸内海に浮かぶ島々の風光明媚な景観に加え、尾道は「造船の街」としての表情も持っています。備後商船が運航する尾道—常石航路は、そのふたつの顔を短時間で同時に楽しめる航路です。
尾道駅前の桟橋を出港すると、まず目に飛び込んでくるのは向島ドックのクレーン群。水道を挟んで数百メートル先に、修繕中のタンカーやコンテナ船が浮きドックに収まる光景が見られます。小さな旅客船と大型の造船設備が近接して共存する、ここならではの景観は「造船所銀座」と呼びたくなる迫力があります。
- 運航会社: 備後商船
- 運航船: 旅客船「ニューびんご」(19総トン)、フェリー「百風」(174総トン)
- 所要時間: 「ニューびんご」約40分、「百風」約1時間
- 経由地: 尾道駅前桟橋→戸崎(尾道の飛び地)→向島(歌港)→百島→常石(沼隈半島南西、福山市)
航路はしまなみ海道の外側に位置する東側を結び、かつて多く存在した離島間航路の風景を今に伝える路線の一つです。特に百島へアクセスできる唯一の定期航路でもあり、島民や観光客にとって欠かせない交通手段になっています。
工場萌えと多島美が交差する船窓
尾道水道側の桟橋から乗船してすぐ目の前に現れるのが、主に内航船の修繕を手掛ける向島ドックです。水面に浮かぶ2本の浮きドックや接岸するセメント船など、海事産業の作業風景が船内から手に取るように見えます。工場設備やクレーン群を背景に、穏やかな瀬戸内海の島影が並ぶコントラストは、工場景観を好む「工場萌え」ファンにも強く訴えかけます。
向島ドックの久野智寛社長は「尾道の駅前(から尾道水道の対岸)にある当社は、尾道と海事産業を盛り上げる最前線」と話している。
航路の左手には千光寺山、右手にはJFE商事造船加工の施設があり、渡船や消防艇、円形タグボートなど多様な船種が行き交います。運が良ければ珍しい船舶の姿に出会えるのも魅力のひとつです。たとえば、円形タグボート「梅丸」(19総トン)や、木曽造船にいたフェリー型消防艇「もみじ」(19総トン)などが紹介されています。
観光と産業見学が同時にかなう短時間の旅程
尾道—常石航路の所要時間は比較的短く、「ニューびんご」で約40分、「百風」で約1時間と、日帰りの旅や観光の合間にも取り入れやすいのが特徴です。新尾道大橋や尾道大橋の下をくぐる瞬間には、橋の巨大さと航路の開放感が同時に味わえ、航行直後に速度が上がると松永湾へと抜けていきます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 運航船 | 「ニューびんご」(19総トン)、「百風」(174総トン) |
| 所要時間 | 約40分(ニューびんご)、約1時間(百風) |
| 主な経由地 | 尾道駅前桟橋、戸崎、向島(歌港)、百島、常石 |
船から見える工場群や造船ヤードは、ただの産業景観にとどまらず、その土地の歴史や現在の経済活動を可視化する存在でもあります。観光目的の訪問者は、港町ならではの景色とともに、地域の産業を支える現場を間近に観察できるでしょう。
出かける前に押さえておきたい点
短時間で往復できるため、スケジュールに組み込みやすい一方、接続する公共交通機関や各島の滞在時間を考慮して計画を立てると旅がスムーズになります。特に百島はこの航路が唯一の定期アクセスであるため、島での滞在を予定する場合は運航便の時刻を事前に確認してください。
また、造船所やドック周辺は安全確保のため立ち入り制限がある箇所もあります。船上からの眺めを楽しみつつ、現場関係者や地元のルールに配慮した行動を心掛けましょう。
尾道の海辺は、寺社や街歩きといった既存の観光ニーズに加え、海事産業を観察する“産業観光”のポテンシャルも高いことを感じさせます。短時間で工場景観と瀬戸内の島風景を同時に味わえる備後商船の尾道—常石航路は、次の尾道訪問の新たな選択肢としておすすめです。