被災の記憶を持たない世代が発信する備え
西日本豪雨の被害が広がった広島県坂町小屋浦で、当時は幼児だった子どもたちが中心となり、生活者目線での防災セットを作る取り組みが進んでいる。無印良品を運営する良品計画の協力で昨年9月に始まったプロジェクトは、店舗での商品の選定や住民への聞き取りを経て、今年2月に20種類以上の防災セットを発表した。
現場の声を反映した選択と学び
プロジェクトに参加した小屋浦小学校6年の矢野楓奈さん(11)は、当時3歳で災害の記憶が薄い世代だ。だが自らの体験や地域で聞いた話をもとに、「家族の命を守るために、防災セットを作ってほしい」と下級生への授業で強く訴えた。選定時は、避難所生活と住宅内での“垂直避難”の両方の場面を想定し、持ち出しやすさや使い勝手を重視して話し合ったという。
「バッグに詰めたり持ったり『逃げられない』となったことも。本当に必要なもの。選び方や考え方を知れた」
住民参加で実用性を担保
店舗には子どもたちが選んだグッズが並び、地元住民100人以上へのインタビュー結果も添えられた。下級生に向けた交流授業では、5年生が「家に備えがなかった。梅雨の時期なので準備したい」「高齢の祖父がいるので、災害レベル3で避難できるか心配だ」といった具体的な反応を示した。震災の経験が薄れる中で、実際に手に取れる物を通じて備えを伝える試みは、地域の防災力向上に直結する。
実務的な内容と地域への影響
今回の防災セットは、選定過程で「持ち出しやすさ」「多用途性」「高齢者や子どもにも扱いやすいこと」を重視している点が特徴だ。住民へのインタビューを通じて、実際に必要とされる物品や、使い方の工夫が反映されているため、単なる教材的な見せ物にとどまらない実用性がある。
- 学びの継承:先輩世代が作った教材(防災カルタ)を受け継ぎ、実物商品に落とし込む形で若い世代に伝えている
- 地域参加:地元住民100人以上の声を反映、実生活に即した品目選定
- 防災教育との連動:学校の交流授業を通じて家庭への備えの必要性が喚起されている
備えを具体化するための実用情報
この取り組みは、地域住民が自宅での備えを見直す契機となる。特に坂町のように山裾の住宅地が土砂災害のリスクを抱える地域では、以下の点が重要だ。
- まずは持ち出し用の最小限セットを用意する(水・食品・携帯ライトなど)。
- 家庭内での垂直避難(上階・近隣の高台施設など)を想定した品目選定と動線確認を行う。
- 高齢者や子どもがいる世帯は、個別の支援用品(常用薬の備蓄、簡易トイレ、移動補助具など)を優先する。
| 項目 | 重点 |
|---|---|
| 飲料水 | 1人1日3リットルを目安に3日分以上 |
| 携帯用ライト/予備電池 | 操作が簡単で防水性があるもの |
| 個人の医薬品・連絡先一覧 | 常用薬は1週間分を目安に備蓄 |
ただし、表中の量や品目はあくまで一般的な目安であり、各家庭の状況(乳幼児や介護が必要な高齢者の有無、ペットの有無、住宅の立地)に応じて調整が必要だ。
今後の展望と課題
今回のプロジェクトは、子どもが主体となって防災を学び、地域に広げるモデルとして評価できる。一方で、継続性を確保する課題もある。学校のカリキュラムや地域団体との連携、資金面での支援が不可欠だ。また、地域全体で備蓄や避難行動を点検する仕組みづくりが求められる。
阪町小屋浦の例は、記憶を失いつつある世代が増えても、具体的な物と教育を結び付けることで備えの文化を伝えていけることを示す。災害はいつ起きるかわからない。住民一人ひとりが日常の中でできる準備を進めることが、地域全体の安全性を高める近道である。
(石井 裕子)