愛媛県の知事部局で、公益通報者保護法施行以降の20年間に内部通報が一件もなかったことが、毎日新聞の47都道府県へのアンケート調査で明らかになった。調査は2021~25年度の5年間を含めて各県の通報件数を問い、愛媛県は通報を受けた実績がないと回答した。自治体の内部通報制度は組織内の不正や違法行為の早期発見・是正に不可欠とされるが、地元行政のガバナンスに関わる重大な指摘を含む結果となった。
調査結果と地域の状況
毎日新聞の調査では、47都道府県中で愛媛県が通報ゼロだったのは特異なケースで、石川県と大分県は各1件にとどまった。5年間(2021~25年度)だけで見ると、岐阜、愛媛、鹿児島の3県がゼロだったが、06年の公益通報者保護法施行以降の通報累計でも愛媛県は通報がなかったという。
愛媛県人事課は、内部通報に関する問い合わせはあるが実際の通報には至っておらず、「不正がないためか、職員への周知が進んでいないためか理由は分からない」と答えている。一方、警察本部に対する別の調査では、愛媛県内の警察の通報件数は過去5年で46件、是正33件と報告されており、知事部局との間に大きな開きがある点も確認された。
専門家の見解と制度的課題
制度に詳しい専門家は、通報がゼロであることは必ずしも法令違反が皆無であることを意味しないと指摘する。調査に協力した淑徳大学の日野勝吾教授は、周知不足や体制不備が原因で制度が形骸化している可能性を示し、自治体に対する省庁間の連携した体制整備の必要性を説いている。
「なぜゼロなのか」「声を上げやすい体制になっているのか」といった批判的な目が必要だ。周知不足や体制不備で制度が形骸化し、組織のガバナンスが機能していないことの証左だ。
住民・職員への影響と懸念
内部通報が機能していない場合、職員や住民が組織の問題を外部に伝えづらくなり、結果として不正や問題行為が長期間放置される恐れがある。行政サービスの公正性や透明性が損なわれれば、住民の信頼低下や公共資源の不適切な運用につながりかねない。
実際、内部通報が一定程度機能している他県では、通報を受けて調査が行われ、是正措置に至る例も報告されている。こうした比較は、通報件数の多寡が単純に「問題の多さ」を示すものではないことを示しているが、通報が全く記録されないこと自体が行政管理や周知の不備を示唆する重要なシグナルである。
県に求められる対応と今後の焦点
今回の調査結果を受け、県に求められる対応は少なくとも次の点に集約される。
- 内部通報制度の周知徹底:全職員を対象に通報手順や保護措置の再周知を行うこと。
- 通報窓口の実効性確認:匿名通報の受け皿や外部委託の活用など、職員が安心して通報できる仕組みの検討。
- 第三者による点検:制度の運用状況を外部有識者が評価する仕組みを導入し、形骸化を防止すること。
これらの対応は、県民への説明責任を果たすうえでも重要となる。法制度上、公益通報制度は消費者庁が担当する部分と総務省が所管する地方自治体の部分とに分かれている。専門家は省庁間の連携で自治体の体制整備を促すべきだと指摘しており、国と自治体の役割分担と協力体制も今後の議論の焦点となるだろう。
データで見る通報の状況(参考)
| 項目 | 状況 |
|---|---|
| 愛媛県(知事部局) | 06年以降通報ゼロ |
| 警察本部(愛媛県)過去5年 | 通報46件、是正33件(別調査) |
| 全国の最多(5年間) | 大阪府163件 |
今回の報道が示したのは、同一県内でも部局ごとに通報の有無や対応に差があり、自治体全体としての通報体制の整備状況を把握することが難しい現実だ。住民にとっては、不正の早期発見と是正が行政の信頼回復につながるため、県は具体的な改善計画と期限を明示することが望まれる。
(青木 沙織)