家族と地域をつなぐ“主婦ハンター”の実務
愛媛県西条市丹原町に暮らす西村裕子さん(50)は、家事と子育てを終えた後に猟の世界に入った。現在は西条西支部丹原町猟友会に所属し、猟師歴は約5年。地域の農作物を荒らすイノシシ、シカ、サルなど有害鳥獣の駆除に携わり、年間でおよそ100頭を捕獲しているという。
「お肉が食べたかった。ただそれだけです」
本人は動機をそう笑って語るが、現場での役割は単純な趣味の域を超える。地域の農家からは「わなを仕掛けていただいた翌日からピタッとシカが来なくなった」「本当に効果てき面」といった評価が寄せられており、被害の現場で即効性のある対策を実施していることがうかがえる。
県内の被害状況と農家の実感
報告では昨年度の県内の鳥獣被害額は約3億5千万円で、そのうち約8割がイノシシ・サル・シカによるものだとされる。取材で出会った複数の農家は、サトイモやブドウ、クリなどの被害が深刻化していると話した。あるクリ農家は、毎年出荷していた量がサルの被害で今年はゼロになったと明かした。被害は収入の減少だけでなく、出荷先や取引関係、地域の農業継承にも影響を与えかねない。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 昨年度の鳥獣被害額 | 約3億5千万円 |
| 被害の主な原因 | イノシシ・サル・シカ(約8割) |
駆除の現場と効果
被害を受けた農地にわなや猟を導入すると、短期間で被害が収まった事例が複数ある。わなを設置した翌日から獣の出没が止まったとの声もあり、適切な駆除は即効性が期待できる。しかし駆除だけで根本解決になるわけではない。個体数管理、繁殖期の特性、餌資源の変化、地域ごとの山林利用の差など複合的要因があり、継続した対策と地域の連携が求められる。
- 即効的な対策:わなや猟による個体の捕獲
- 中長期的対策:生息数の把握、餌場対策、地域単位の連携
- 支援制度の活用:被害補償や捕獲支援の申請窓口の周知が必要
住民と行政、猟友会の役割分担
現場で活動する猟師の存在は、農家にとって大きな支えだ。だが、駆除活動は技術と経験、法律・安全面の知識が求められるため、誰でも行えるものではない。行政による指導や認可、被害補償や捕獲支援制度の運用、地域住民への周知が欠かせない。西条市や関係団体の取り組みについては、地元猟友会や営農組合と連携した実務的な支援が重要だ。
取材で話を聞いた営農組合の組合長は、収穫期が近づくと被害が一段と増えることを指摘し、「絶対数を減らしてくれだったら被害が収まらん」と危機感を示した。単独での駆除や防護対策では限界があるとの見方だ。
今後の課題と住民に向けた情報
被害抑制のためには、以下の点が今後の焦点になる。
- 捕獲した個体の活用と流通のルール整備(衛生管理、処理体制)
- 駆除活動に参加する人材の育成と安全教育
- 行政と農業団体、猟友会の連携強化と情報共有の仕組み化
被害に直面している農家は、まずは地域の営農組合や市役所の農林担当窓口、あるいは猟友会に相談することが現実的な一歩になる。わな設置や捕獲には許認可や技術が必要な場合があるため、専門家の助言に従うことが安全面でも重要だ。
西村さんのように、地域の実務に入って被害を抑える人物が増えることは即効性のある対策につながる。ただし個々の活動に頼るだけでなく、計画的・継続的な対策の構築と、農家の生活を守る社会的仕組みづくりが欠かせない。地域の実情に即した多面的な対応が求められている。
(取材・文/青木 沙織)