第108回全国高校野球選手権北北海道大会の決勝で、クラーク国際は白樺学園に3―7で敗れ、3年ぶりの甲子園出場はならなかった。試合終盤、背番号を託されたのは、昨秋に外野から投手へ急転向した佐々木俊介投手(3年)だった。わずか1年に満たない投手歴で、決勝の重圧がのしかかる場面を2回無安打、2奪三振で切り抜けたが、序盤の失点は重かった。スタンドには車いすの母が見守る姿もあった。家族の思いを胸に刻み、本人は「悔いなく終われた」と前を向く。
家族から届いた言葉と、決勝のマウンド
決勝の朝、佐々木投手のもとに携帯が震えた。画面に並んだのは、病と向き合いながら息子を支えてきた母・真弓さん(57)からの一文だった。
「見に行くから、がんばって」
中学時代まで試合の送迎を重ねてくれた母への思いは強い。だからこそ、彼は即座に返信した。
「今日は絶対に勝って、甲子園に絶対連れて行くから」
一方のゲームは、序盤で苦境に立たされた。クラーク国際は二回までに6失点。終盤の七回表に5連打で3点を返して望みをつないだが、その裏に3番手が本塁打を浴びて四球も重なり、再び流れを手放す。ここでベンチが託したのが、エースナンバーの佐々木投手だった。緊張感と「楽しもう」という気持ちの双方を抱きながら、彼は笑顔で輪に入り、コーナーを丁寧に突く投球で打者6人を完璧に封じた。だが点差は埋まらず、試合はそのまま白樺学園が押し切った。
外野手からの急転向、基礎を積み上げた8カ月
佐々木投手が本格的に投げ始めたのは、昨年11月のことだ。それまで中堅手かつ1番打者として機能していたが、秋の地区大会で敗れ、選抜への道が絶たれたチームは、投手の柱を必要としていた。強肩に白羽の矢が立ち、指導陣は「投手転向」を告げる。以降、彼は徹底的に土台づくりへ向き合った。
- 手首の強化:砂入りボールの活用や5キロのダンベルを上下させる反復で、ボールリリース時のスピン量を高める。
- 投げ込み:春以降はフォーム固めとスタミナ強化のため、定期的に150球前後の投げ込みを継続。
- 直球の質:3月には、ベース付近で失速していた直球が「伸び」を伴い、球質の変化を体感。
取り組みは春の公式戦で結果に結びついた。道大会では北海、札幌日大といった強豪に連投で挑み、いずれも150球超の完投勝利。ただし決勝では「力尽きた」と自己評価し、夏へ向けた再整備を誓った。
試練が教えた配球とメンタルの均衡
夏に入っても成長曲線は続いたが、未経験ゆえの揺らぎも顔を出した。準決勝は三回に先頭を二塁打で出すと、4四死球で一挙5失点。典型的な「力み」の連鎖だったという。そこで迎えた決勝では、「コーナーを突く球配分」と「直球で押す強気」の両輪を明確化。救援登板の2イニングは、狙いどおりの投球がはまり、被安打0・2奪三振と圧力を示した。スタンドには父と、車いすの母の姿。家族の視線を背に、彼は背番号の責務をまっとうした。
| 局面 | 内容 |
|---|---|
| 二回まで | チームとして6失点 |
| 七回表 | クラーク国際が5連打で3得点 |
| 七回裏 | 本塁打と四球で追加点を許す |
| 佐々木の救援 | 2回を6人で料理、2奪三振・被安打0 |
悔しさの先に――次の舞台へ
試合後、佐々木投手は涙を見せなかった。言葉は簡潔だが、胸中の温度は高い。
「両親に甲子園でプレーを見せたかった。悔しい結果だけど、自分の全力プレーを出せたのはよかった。みんな最後まで頑張ってやってくれたので悔いなく終われたかな」
進路は大学進学を見据え、野球を続ける意思を示した。今冬は一からの体づくりに力点を置き、投球の持続性と質の両立を図る構えだ。目標に掲げるのは、大学野球の全国大会が行われる神宮球場。大舞台で、今度は両親を連れて行くという決意がにじむ。
「急造」では終わらない、持続的な伸びしろ
秋に外野手からの転向を告げられ、冬に基礎を築き、春に手応えをつかみ、夏の決勝で投球の再現性を示す。佐々木投手の歩みは、短期の変身ではなく、課題に向き合うプロセスの堆積だったことを物語る。特に手首強化に象徴される基礎トレーニングは、直球の質を変え、配球の幅を生んだ。さらに、準決勝での四死球連発という挫折を、決勝での冷静なゾーン攻略へと反転させたメンタル面の修正力も見逃せない。
結果として甲子園の扉は開かなかったが、家族の励ましと、仲間とつないだマウンドへの責任感が、彼を次のステージへ押し出している。「急造エース」というラベルでは括れない、継続的な成長の輪郭が、決勝の2イニングに凝縮されていた。
夏が終わっても、物語は続く。目標の舞台は変われど、支える家族と仲間の存在は変わらない。神宮で再びスタンドに両親の姿を――その願いが叶う日まで、筋道だった鍛錬は続く。