県産米の新顔「つぶきらり」発表 高温耐性で収量性も向上
島根県は7月13日、県農業技術センターで育成した新品種「島系84号」の愛称を公募の中から「つぶきらり」に決定したと発表した。応募総数は4,551件。県は本格栽培を目指し、試験栽培段階を経て2028年度に約150ヘクタールでの栽培拡大を計画している。
近年の夏季高温化に伴い、稲のデンプン蓄積が不十分になって粒内部に隙間が生じる「白未熟粒」が増加し、主力のコシヒカリの外観品質低下が問題になってきた。この状況を受け、県は2016年度から高温耐性を持つ新品種の育成に着手。交配親には福井県由来の高温耐性系統と、新潟県由来の外観品質に優れる系統を組み合わせ、長年の選抜と育成を経て「島系84号」を作出した。
県の試験結果によると、島系84号はコシヒカリと比べて粒がやや長く、やや大きめで、白未熟粒の発生が少ないこと、倒伏しにくいこと、そして収量が約2割増であることが確認されている。炊飯時の外観、香り、味、粘りも良好という評価が示された。一方で病害に対する脆弱性も指摘され、特にいもち病に弱いことから防除の徹底が必要とされる。
「県内はもちろん、全国の皆様に愛される素晴らしいお米に育つことを願っています」 — 出雲市の福田しのぶさん(愛称応募者)
愛称「つぶきらり」を応募した出雲市の福田しのぶさんは、米粒の存在感と炊き上がりのつや、夏の強い日差しをはね返すような爽やかさと力強さを表現したいと説明した。公表の場で県は、福田さんに県産米84キロと1万円相当のしまね和牛を贈呈した。
農家への影響と普及に向けた課題
新品種の導入は、外観品質低下に悩む平野部の生産現場にとって有望な選択肢になる可能性が高い。粒の大きさや収量性の向上は農家収入の改善につながるが、いもち病への感受性は生産現場の運営に直接影響する。
- 防除費用の増加 — 薬剤散布回数や防除資材の投入が増えればコスト上昇の要因となる。
- 栽培管理の高度化 — 発病リスクを下げるため、適切な直播や密植回避、圃場の排水管理が重要となる。
- 流通・ブランド化の検討 — 新品種としての差別化や消費者受けをつくるための販促戦略が必要。
県は試験栽培を経て、栽培マニュアルの作成や防除技術の周知、種子供給体制の整備を進める方針だ。2025年度からの試験栽培で得られたデータをもとに、適地適作の推進や栽培法の標準化を目指す。
消費者と市場への影響
食味・外観ともに良好とされることから、家庭の食卓や飲食店向けの需要獲得が期待される。ただし、普及初期はまだ生産面積が限られるため流通量は限定的になる見込みだ。県はブランド化に向けた検討や地元販路の開拓、県外へのPRも視野に入れている。
消費者にとっては、白未熟粒による見た目の問題が減ることは炊飯時の満足度向上につながる。また収量性向上により地域の米価安定や供給維持に寄与する可能性がある。
今後の動きと農家向け情報
県は2028年度を目標に約150ヘクタールでの本格栽培を計画している。導入を検討する農家は、以下の点を確認する必要がある。
| 項目 | 現状・注意点 |
|---|---|
| 生産適地 | 平野部での品質維持に期待。ただし湿害傾向の圃場は要注意。 |
| 病害対策 | いもち病に弱いため定期的な防除と圃場管理が必要。 |
| 収量性 | コシヒカリ比で約2割増の試験結果。 |
| 流通 | 初期は供給量が少なく、販売ルートの確保が課題。 |
導入希望の農家や関係者は、県農業技術センターが公表する栽培指針や試験データに注目し、地域のJAや普及指導員と連携して栽培計画を立てることが推奨される。県は今後、説明会や研修を開催し、栽培上の留意点や防除法について具体的な指導を行う予定だ。
島根の気候変動に伴う高温化は農業経営にとって避けがたい課題であり、育種による適応策は重要な選択肢となる。今回の新品種は、現場の悩みに対する一つの答えとなる可能性を持つが、病害管理や供給体制の整備という実務面の対応が普及の成否を左右する。
(村上 彩・島根県担当)