要旨
7月21日に開かれた県や沿線自治体の会議で、富山地方鉄道の本線(電鉄富山〜宇奈月温泉、約53.3キロ)について、並行するあいの風とやま鉄道区間を廃止せず現行の路線を保持する方向で議論することが確認されました。県が提示した試算では、10年間で現行維持は約127億円、廃止を含む案では最大約173億円となり、廃止より維持の方が財政負担が小さいとの結果が示されました。しかし沿線自治体は、費用の負担配分が不透明なまま最終判断を下せないと反発しています。
会議の経緯と現状
富山地方鉄道は営業赤字が続く中、検討会で一時、滑川—新魚津間(あいの風とやま鉄道と並行)を含む東側区間の廃止方針を打ち出していました。ところが、2025年12月に県と沿線自治体が支援方針を決めたことにより、今年度の廃止は見送られ、今回の会議で今後の方向性が改めて協議されました。
提示された試算の中身
県は富山地方鉄道が保有するデータを基に費用の試算を示しました。主な示唆は次のとおりです。
- 現行通り全線を維持した場合の10年間の総額:約127億円
- 運行を廃止した場合(線路を残すか撤去するかで変動):現行維持より費用が多くなり最大で約173億円
試算では、廃止に伴う線路撤去費用や将来の維持管理(所有者の整理・対応)などが長期的に費用を押し上げる要因として挙げられており、単純な廃止でコスト削減が見込めない可能性が示されています。
関係者の主張と懸念
公共交通の専門家からは、国の支援を受けられる制度を活用し、再構築事業として路線を位置づけ直すべきだという提言が出されました。これに対し、富山地方鉄道の新庄一洋社長は、鉄道を単に残すのではなく有効に活用する観点で再構築事業が魅力的だと述べ、関係者の一致を求めました。
「弊社は鉄道を残すのではなく生かすという視点であれば、再構築事業は大変魅力のある制度だと思っています。」(富山地方鉄道・新庄一洋社長)
一方で沿線自治体首長からは、負担割合や財源の明確化がない現段階で支持も反対も表明できないとの声が相次ぎました。滑川市の水野市長は、これまでの検討過程で沿線自治体の費用負担に関する議論が不十分であると指摘しています。
住民と地域経済への影響
本線は通勤・通学、医療アクセス、観光(宇奈月温泉など)に直結しており、運行維持か廃止かは日常生活の利便性に直結します。並行するあいの風とやま鉄道がある区間でも、乗り換えや運行本数、運賃構造の違いにより利用者の選択が制約される場合があります。運行が縮小されると、以下のような影響が想定されます。
- 通勤・通学の利便性低下による移動時間の増加や負担増
- 高齢者や免許を返納した住民の移動手段喪失に伴う生活困難
- 観光客の減少による宿泊・飲食業への波及効果(沿線観光地への影響)
財政面の課題と今後の論点
自治体が最終判断を下すためには、次の点が明確化される必要があります。
- 県や国、自治体間での費用負担割合の提示
- 再構築事業を導入する際の国の支援条件と対象範囲
- 長期的な利用者見通しに基づく運行計画の再設計
提示された試算が示すように、短期的なコスト削減を目指して廃止に踏み切ると、線路撤去や代替交通整備にかかる費用でかえって総コストが増える恐れがあります。逆に全線を維持する場合は、継続的な赤字補填や維持管理費の確保策をどう作るかが大きな課題です。
| 案 | 10年間の想定費用 | 主な要因 |
|---|---|---|
| 現行通り全線維持 | 約127億円 | 運行維持・保守費用等 |
| 廃止(線路残存/撤去含む) | 最大約173億円 | 線路撤去費用や整理費用、代替対策費用等 |
今後の見通しと記者の視点
今回の会議で示された方向性は「全線維持を軸に検討する」というものでしたが、沿線自治体が負担割合を含む具体的条件を求めていることから、決着には時間を要する見込みです。地域公共交通の将来像を描く際には、単に収支の数字だけでなく、住民の生活維持や地域経済への波及効果も総合的に判断する必要があります。
富山県内での次のステップは、費用負担の精緻化と国の支援制度の適用可否の確認、そして具体的な運行計画の策定です。沿線住民にとっては、今後の会議で示される負担の中身や、廃止に伴う代替輸送手段の有無が生活に直結するため、自治体や県に対する説明責任と透明性の確保が重要となります。
(取材・文:井上 麻衣/プレスリリースジェーピー富山県担当)