県試算で明らかになった収支見通し
富山県は21日、富山地方鉄道本線(電鉄富山〜宇奈月温泉)の2035年度における営業収支についてまとめた最終報告書を公表した。県が地鉄から提供を受けた運行データを基に外部の専門家らと精査した結果、現行の運行体制を維持した場合、営業収入が7.7億円に対して営業費用が13.7億円となり、差し引きで約6億円の赤字が見込まれるとされた。
報告では、本線の一部区間が第三セクターの「あいの風とやま鉄道」と並行する点が構造的な課題として繰り返し指摘されている。並行区間(滑川〜新魚津、約8.5キロ)をどう扱うかにより、収支の試算に差が出ることも示された。
検討した三つの案と試算の中身
最終報告は、以下の三つのケースで2035年度の収支を試算した。
- 現状のまま本線を維持する案(現行維持)
- 並行区間の営業運行をやめる案(ただし回送は継続)
- 並行区間の全運行を廃止する案
それぞれの試算結果は表の通りで、いずれも営業赤字が見込まれるが、最終的には運行範囲や費用配分の違いで赤字額に若干の差が生じる。
| 案 | 営業収入 | 営業費用 | 営業収支 |
|---|---|---|---|
| 現行維持 | 7.7億円 | 13.7億円 | −6億円 |
| 並行区間・営業運行廃止 | 6.6億円 | 12.6億円 | −6億円 |
| 並行区間・全運行廃止 | 6.6億円 | 12.0億円 | −5.4億円 |
自治体側の合意点と懸念
報告書は、沿線7自治体の首長らが出席した会合で示され、新田八朗知事や沿線自治体の首長、事業者側の代表が出席した会議では、当面は本線を現行どおり維持する方向で議論を進めることが確認された。ただし、運営に伴う費用負担をどう分担するかについては複数の首長から慎重な姿勢が示されている。
「費用負担は今後、話し合うことになる。」
県知事のコメントは、自治体側の予算編成の制約を踏まえ、具体的な負担割合や支援の方法をこれから詰めていく必要があるとの認識を示している。
住民生活と地域経済への影響
本線は通勤・通学、観光の双方で重要な役割を担っている。仮に運行区間を縮小したり、並行区間を廃止することになれば、以下のような影響が想定される。
- 通勤・通学ルートの変更や代替交通手段の整備が必要になる可能性
- 観光客のアクセスが制約されることで地域の観光収入に影響が出る懸念
- 路線存続のために自治体負担が増えると、他の行政サービスへ回せる予算が圧迫される可能性
とくに並行区間が存在する地域では、代替手段の整備にかかるコストや移行期間中の利便性低下が課題となる。県の試算は通勤・通学用の定期利用者数の増減や観光需要を想定要素に入れており、これらが実際にどう推移するかで将来の収支は大きく左右される。
今後の議論の焦点と自治体の対応負担
会議で明らかになった通り、当面は現状維持の方向で議論を進めるものの、持続可能な運営のためには以下の点を中心に具体的な調整が必要になる。
- 各自治体の負担割合とその根拠、負担能力の検証
- 並行区間の扱いに伴う住民サービスの確保策
- 観光や沿線再生を見据えた収入増加策の検討
県は今後、自治体と協議を重ねるとともに、地鉄側の詳細データを精査しながら運営の効率化や収支改善の余地を探る方針だ。具体的な費用負担の合意が得られないままでは、自治体の予算編成にも影響が及ぶため、短期的な決断だけでなく中長期的な財政計画とのすり合わせが不可欠だ。
記者の視点:地域の足を守るための選択肢と現実
沿線に暮らす住民にとって、鉄道は日常の移動の基盤であり、単なるインフラの問題にとどまらない。県の試算は収支の現実をあらためて示した一方で、収入や費用の見直し、並行する鉄道との役割分担など複数の選択肢が残されていることも示している。住民の移動手段を確保しつつ、自治体の財政負担を無理なく配分するためには、透明性のあるデータ公開と住民説明、段階的な移行計画が求められる。
今後、県と沿線自治体、事業者がどのような具体策をまとめるかが焦点だ。移行の検討が進む過程で、通勤・通学者や観光業関係者への影響を最小化する支援策が講じられるかどうかを注視していく必要がある。
(井上 麻衣/プレスリリースジェーピー・富山県担当記者)