寺社境内の水景が都市の自然を支える実態を解明
京都市東山地域の寺社・神社に残る小規模な水域が、都市の両生類にとって重要な生息地になり得ることを、京都大学の研究チームが示した。チームは寺社31施設にある80の水域を対象に目視調査と鳴き声調査を行い、うち43水域では環境DNA(eDNA)解析も併せて実施した。その結果、カエル7種(在来6種、外来1種)とイモリ1種が確認された。研究成果は2026年8月18日に国際学術誌『Urban Ecosystems』にオンライン掲載されている。
寺社や神社にある池や水盤といった水景は長年にわたり景観や文化財として維持されてきたが、それらが生物学的にどのような価値を持つかは十分に調べられてこなかった。本研究は、こうした“人が手を入れてきた文化的水景”が都市の生物多様性を支える“小さなすみか”になり得ることを示した点で意義深い。
- 調査対象:京都市東山地域の寺社31施設、計80水域(うち43でeDNA解析)
- 確認された生物:カエル7種(在来6種、外来1種)、イモリ1種
- 関連要因:水域の種類、水源・流れ、森林からの距離、水辺の構造、コイの有無が種ごとに異なる影響を示した
研究を率いたチームは、水域ごとの形状や水の流れ、周辺の森林との距離、そして水中にいる魚類の有無などが、種の出現状況と関係していることを明らかにした。これにより、単に池があるか否かだけでなく、水管理や周辺環境とのつながりを重視した保存管理が必要であることが示唆される。
「身近な池で同僚たちとオタマジャクシやカエルを眺める時間に癒されました。小さな水辺にも、カエルだけでなく多くの生きものが関わり合う豊かな世界が広がっています」(研究者コメントより)
研究者のコメントが指摘するように、パンデミック期に身近な自然に救われた経験は、今回の調査の出発点になったという。調査を通じて、寺社に残る水景は単なる文化的景観であるだけでなく、生態学的にも価値のある場であることが確認された。
文化財と生物多様性をどう両立させるか
今回の成果は、寺社などで行われる池の改修や水管理、魚類の管理(とくに外来魚の取り扱い)に対して具体的な検討課題を提示する。例えば、改修の際に底泥を一斉に掻き出す、あるいは池に観賞魚としてコイを放すといった人為的な管理は、両生類の生息に影響を及ぼす可能性がある。
加えて、都市部では周辺の緑地や森林との連続性が失われがちだが、本調査は森林との距離が生息状況に影響する点も示している。したがって、個々の寺社での管理にとどまらず、周辺の緑地や水路を含めた景観単位での保全方針が必要となる。
政策や管理指針の設計にあたっては、以下の点が考慮されるべきだ。
- 池の改修計画における生態系評価の導入
- 外来魚の管理と在来種保全の調和
- 周辺環境(森林や水路)との連結性を保つ景観保全
- 地域の寺社管理者や住民を巻き込んだモニタリング体制の構築
こうした取り組みは、文化財としての価値と生態学的価値の双方を損なわずに維持するために重要だ。寺社の多くは私有・宗教法人管理の施設であり、管理方針は各施設ごとに異なる。研究は施設側の協力のもとに行われたが、改修や管理の判断に生態学的視点を取り入れるためのガイドライン作成など、制度面での支援も課題となる。
今後の研究と実務への展開
研究グループは、今回の成果が池の改修や水管理、魚類の管理、周辺環境とのつながりを考慮した水辺管理の検討に役立つことを期待している。今後は、より広域かつ長期のモニタリングによって季節変動や年次変動を把握し、種ごとの生息要件を精緻にすることが求められる。
また、環境DNA解析の応用は、目視や鳴き声調査では確認が難しい種の検出に有効であり、限られた調査時間やアクセス制約のある都市部調査での活用価値が高い。とはいえ、eDNAの解釈には注意点もあり、現場での実測データと併用することで信頼性を高めることが大切だ。
都市の文化的景観が持つ生態学的な側面を再評価することで、寺社の池は観光や景観保全の対象であると同時に、生きものたちの重要な保全拠点になり得る。今回の京都での調査は、その可能性を示す一例として、全国の都市における水辺管理の議論に新たな視点を提供する。
| 調査対象 | 数 |
|---|---|
| 寺社施設 | 31 |
| 水域(総数) | 80 |
| eDNA解析実施水域 | 43 |
| 確認されたカエル類 | 7種(在来6種、外来1種) |
| 確認されたイモリ | 1種 |
今回の研究は、大越香江氏、辻冴月氏、西川完途氏らのチームによるもので、学術誌掲載をもって公表された。文化的価値と生態学的価値の両立は簡単ではないが、本調査は管理実務や政策の改善に向けた具体的な出発点を示している。