世羅町がデジタル人材と連携し地域の“関係人口”と働く場を模索
広島県世羅町は、受講生数が累計3万人を超えるWebスキルスクールを運営する株式会社デイトラと連携し、地域と町外のIT人材をつなぐ「関係人口創出プロジェクト」を始動した。プロジェクトは、フォトコンテスト、1泊2日のDXハッカソン、町民向け講演会の三本柱で構成され、2026年9月から順次実施される。取り組みは人口減少とデジタル人材不足という二つの構造的課題を同時に解決することを目指す。
世羅町の人口は14,388人(2025年4月時点)、高齢化率は42.6%で、全国平均(28.6%)を大きく上回る。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2050年に人口は約8,800人と2020年比で約42%減、生産年齢人口(15〜64歳)は同期間でほぼ半減するとされ、地域の担い手不足は喫緊の課題となっている。
一方で、地方中小企業のデジタル化の遅れも深刻だ。経済産業省やIPAの調査が示す通り、小規模事業者のDX取組率は低く、DX推進人材や知識の不足が普及の阻害要因になっている。こうした背景から、本プロジェクトは町外のIT人材が地元企業の実課題に短期間で関与し、成果物を納品する実践型の取り組みを設計した。
三つの施策と地域への直接的な効果
| 施策 | 内容 | 実施時期 |
|---|---|---|
| フォトコンテスト | Instagramで「住みたい町」をテーマに町の魅力を広く発信 | 9月1日〜 |
| DXハッカソン | 地元企業4社とデイトラ修了生らがチームを組み、宿泊して課題解決を行う | 9月19日〜20日(1泊2日) |
| 町民講演会 | デジタルツールを活用した新しい働き方を地域に紹介 | 10月17日 |
DXハッカソンでは、Googleマップの整備やホームページのプロトタイプ作成、チラシやSNS運用の整備など、実務に直結するアウトプットをその場で生み出し、早期に現場で使える成果を町内事業者へ納品する計画だ。行政と教育事業者、地域企業が役割を分担することで、短期的な効果と長期的な関係構築を両立させる狙いがある。
「住みたい町」をテーマに、世羅町の日常の魅力(田園・里山・暮らしの風景)をInstagramで全国から募集。
フォトコンテストは、町の魅力を可視化して外部との接点を作る“入口”として位置付けられる。SNSを通じた情報発信は、移住検討者や一時的に関わる“関係人口”の増加に寄与する可能性がある。町外のクリエイターが見つけた地域の魅力をきっかけに、交流や二次的な訪問・関係構築につながることが期待される。
- 短期:地域企業に対する具体的なデジタル成果の納品と運用改善
- 中期:町外IT人材との接点を通じた関係人口の増加と地域理解の深化
- 長期:若者の流出抑制や地域内での多様な働き方の定着
町民向け講演会は、「町に根付いて暮らしながら収入を得る」ための選択肢を提示する教育的側面を持つ。デジタルスキルの習得やツール活用が進めば、地域内での副業・テレワーク・オンラインビジネスなど、地元に残りながら収入を得る可能性が広がる。これにより、若年層の町外流出を一定程度防止し、地域の人的基盤の維持につながる見込みだ。
地域横展開と持続性の視点
デイトラは北海道下川町での連携実績を踏まえ、本プロジェクトを単年度に終わらせず、モデルとして全国の中山間地域へ横展開する意向を示している。実効性を高めるには、以下の点が鍵となる。
- 地元事業者側の受け入れ体制と課題の可視化(短期間で解決可能な業務と長期的な改善を切り分ける)
- 成果物の運用支援(納品後の維持管理や運営ノウハウの移転)
- 受け入れ側と町外人材の継続的な接点づくり(単発イベントで終わらせない仕組み)
これらが整えば、他自治体への展開も現実味を帯びる。加えて、行政側が地域内でのスキル向上を支援するための予算措置や、地元商工会等と連携したフォローアップ体制を整備することが成功の鍵となる。
今回のプロジェクトは、地域の“稼ぐ力”を高めると同時に、町と外部人材との新たな関係の形を模索する試みだ。世羅町が人口減少と高齢化という現実にどう向き合い、地域産業のデジタル化を進めていくかは、今後の展開を注視する必要がある。9月のハッカソンではメディア取材が可能とされており、現地での成果や住民の反応を通じて、取り組みの実効性を確認することができるだろう。
(取材・文:石井 裕子)