日常に本を置く設計で「立ち読み」を誘発
大阪府守口市の私立中高一貫校、大阪国際中学校高等学校は、令和4年4月の新校舎開校に合わせて校舎全体を図書館のように活用する取り組みを進めている。校舎の廊下や壁に本棚を配し、生徒の目線の高さで表紙が見える陳列を施すことで、通行の合間や待ち時間に気軽に本を手に取れる環境をつくっているのが特徴だ。
配置される蔵書は洋書を含めて約2万冊。従来の日本十進分類法にとらわれず、学校独自の5つのテーマで本を並べる工夫をしている。例えば、ある教員は社会福祉や宗教に分類されがちな資料を「インド」のコーナーに置き、「マザー・テレサの活動を国別の文脈から理解してほしい」と説明する。分類を横断して本が並ぶことで、意外な出会いを生み、興味の幅を広げる狙いだ。
司書体制と学習連動の仕組み
図書の運用は、学校の司書教諭と紀伊國屋書店から派遣された司書を含む計7人が行っている。貸し出しや相談対応のカウンターも常設し、毎月のテーマに沿った推薦コーナーや生徒が感想を書く自由帳を置くなど、利用を促す仕組みが整えられている。
「もともと気軽な『立ち読み』を誘発することを狙っているので、数字に現れないデータも多いです。でも、この学校で1年間で1冊も本に触れない生徒はほぼゼロですね」
司書教諭は、図書が学習の基盤になるとの考えを示す。生徒の読書を評価するだけでなく、読んだことを発信することを課題化する取り組みもある。高校1年生の夏休み課題として行う「本の帯プロジェクト」では、借りた本の内容を紹介する帯を生徒が作成し、文化祭で展示するほか、紀伊國屋書店梅田本店の店頭に並ぶ選抜もある。学校内の課題が外部の書店の店頭という実社会の場へつながる点は生徒のモチベーション向上に寄与している。
日々の支出と利用実態――数値が示す利用の広がり
学校側によれば、利用の多い日は貸し出しが100冊弱に上るという報告があり、個々の生徒の読書量も一定の成果を示している。取材で会った高校2年の生徒は今年に入って126冊を読んだと話し、校内で本棚を眺めて新たな世界を見つける喜びを語っていた。数字だけでなく、廊下で本に手を伸ばす、教室間の移動で表紙に目が留まるといった日常的な接触の頻度が高まる点が、隠れた効果といえる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 蔵書数 | 約2万冊(洋書含む) |
| 司書体制 | 司書教諭+紀伊國屋派遣司書を含む計7人 |
| 貸出実績(多い日) | 100冊弱 |
| 生徒の読書例 | 高校生1人の今年の読了数:126冊 |
教育的効果と地域への波及
校舎全体を図書館化する試みの教育的効果は複合的だ。まず、主体的な学びを促す基盤としての図書教育が挙げられる。興味をきっかけに自発的に調べる行動が増えれば、授業の理解深化や探究活動の質向上につながる可能性が高い。次に、多様なテーマ配置によって学際的な思考を促す点。従来の分類に縛られない配架は、社会科・国語・英語・家庭科など複数教科の関心を呼び起こす場となる。
地域視点では、紀伊國屋書店との連携や生徒作品が市内の書店に並ぶ仕組みがあることで、学校の外部との接続が生まれる。生徒の制作物が公開の場に出る経験は、学習動機の強化だけでなく地域メディアや書店を通した学校の可視化にもつながる。保護者や近隣住民にとっては、学校が開く読書文化の一端を感じやすく、地域の読書環境づくりに影響する余地がある。
- 生徒の学び:日常接触で読書の敷居を下げ、自主的な学習を促進。
- 教員・司書の役割:選書・配架・読書指導の一体化が求められる。
- 地域連携:書店や文化イベントとの接点が学校外での学びを拡大。
課題と今後の展望
一方で、運用面の課題もある。校舎内に本を広く置くことで貸出管理や保守、紛失防止の仕組みづくりが不可欠となる。また、単に本を並べるだけでなく、読書を学習成果に結び付ける評価や授業との連携が問われる。図書利用の習慣化は短期間で測れるものではないため、数年単位での定点観測や利用実態の分析が重要だ。
学校は既に司書の配置や月間テーマ、帯プロジェクトといった取組みを行っており、これらを軸に継続的な改善が期待される。読書の種を日常の動線にちりばめる試みは、他校にとっても参考になる先行事例だ。地域の教育関係者や自治体がどのように支援し、広げていくかが今後の鍵となるだろう。
取材を通して見えたのは、書架や本だけでなく、それを運営する人々の工夫と意志だ。校舎を満たすのは本という物質だけではなく、本に触れさせたいという教育側の意図と、それを受け取る生徒の変化である。守口市のこの取り組みが、学校図書の在り方を問い直すきっかけになり得ることを記しておきたい。
(文・前田 学 プレスリリースジェーピー大阪府担当)