県内の現状とデータが示す偏在
全国的な円安も背景に、2025年の訪日客は全国で4268万人と過去最多を更新しました。長野県でも外国人延べ宿泊者数が250万人と2年連続で最多を記録した一方、県内での来訪者の分布には大きな偏りがあります。県がKDDIの位置情報を用いて集計した日中(午前10時〜午後6時)の延べ来訪者数は、2024年で634万人でしたが、地域別では松本地域が県全体の29.6%を占め、上伊那と南信州はそれぞれ0.5%にとどまりました。
市町村別の来訪傾向でも、訪問先は松本市、軽井沢町、長野市の順に集中しています。季節面では「冬に強く夏に弱い」という構図が顕著で、観光庁の宿泊統計を基にした調査では2025年の延べ宿泊者数は1月が44万5千人、最少の8月は10万人と、月別で4倍以上の差があると報告されています。
冬高夏低となっている。
国・地域別の行動傾向と地域別影響
国別ではオーストラリアからの来訪者の偏りが際立ちます。県北部の北アルプスや北信地域、長野地域に滞在する割合はそれぞれ35.6%、29.6%、14.4%と、豪州客の行き先が県北部に集中しています。実際に豪州からの延べ宿泊者数は1月が61,390人であったのに対し、8月はわずか1,100人に留まり、雪質の良さを目的としたスノーリゾート志向が背景にあります。
住民生活と事業者に及ぶ具体的影響
このような偏在は地域経済と住民生活に複合的な影響を及ぼします。訪日客の集中する松本や軽井沢周辺では宿泊・飲食・交通需要の増加が雇用や収入につながる一方、宿泊施設の不足や混雑、地域インフラへの負荷、生活環境の変化を招く恐れがあります。逆に訪問が少ない地域では観光関連収入の機会損失が続き、地域経済の回復や雇用創出に向けた取り組みが後回しになりかねません。
県はこの問題を踏まえ、6月に導入した県宿泊税の使途に「グリーンシーズンの誘客強化など、年間を通じた観光需要の平準化」を明記しました。また、鉄道の利便性と雪という資源が誘客に大きく影響するとの分析を示し、駅と観光地を結ぶ「2次交通」の充実などに取り組む方針です。来夏に予定するJR旅客6社と県、観光事業者による大型キャンペーン(信州デスティネーションキャンペーン)が、人気観光地以外での周遊性を高め、県全体へ波及するかが今後の試金石になります。
- 偏在の現状:松本地域29.6%、上伊那・南信州0.5%
- 季節差:1月44万5千人、8月10万人(2025年)
- 豪州客の集中:北アルプス35.6%、北信29.6%、長野14.4%
今後の課題と住民・事業者に向けた実務的助言
地域住民や観光・宿泊事業者にとって重要なのは、偏在を前提にした取り組みの強化です。具体的には次の点が挙げられます。
- 二次交通の整備:観光地と鉄道駅を結ぶ輸送手段の拡充で、日帰り客・宿泊客の周遊導線を改善する。
- オフシーズン対策:グリーンシーズンや夏季向けの魅力発信、体験商品やイベント企画で宿泊需要を分散させる。
- 宿泊税の活用:税収を地域振興やインフラ整備、滞在拡大のためのプロモーションに充てる。
| 項目 | 数値(出典年) |
|---|---|
| 県の日中延べ来訪者数 | 634万人(2024年) |
| 県の外国人延べ宿泊者数 | 250万人(2025年) |
| 全国の訪日客 | 4268万人(2025年) |
県と自治体、観光事業者、鉄道や交通事業者が連携し、地域間の受け皿を整備できるかが今後の鍵です。来夏の大型キャンペーンは好機である一方、事業効果を県内全域に広げるためには受け入れ側の準備と持続的な施策が欠かせません。住民にとっては混雑対応や生活環境の維持、事業者にとっては需要平準化と収益性の確保が当面の課題となります。県が示す施策の進捗と、地域ごとの具体的な取り組みを注視する必要があります。