知事表明で着工容認へ──「これからが本番」と県
静岡県の鈴木康友知事は7月7日、県議会の全員協議会で、JR東海が計画するリニア中央新幹線の静岡工区について、着工を容認する方針を正式に表明した。県は7月18日にJR東海と、着工許可に相当する「県自然環境保全条例」に基づく協定を締結する予定としている。知事は説明会や専門部会の審議状況を踏まえ、協定の締結可否を総合的に判断したと述べた。
静岡工区は南アルプストンネルの一部にあたり、トンネル総延長約25キロのうち県内部分は8.9キロに及ぶ。隣接する長野工区では地表からトンネルまでの深さが最大で1400メートルに達するとされ、工事は「最難関」の一つと位置づけられている。2017年当時、川勝平太前知事は水資源への懸念から着工を認めない判断を示し、工期・開業時期は大幅に遅延していた。
経緯と県側の判断材料
鈴木知事は、着工容認の判断に当たり「県民への説明状況」と「工事に必要な法令上の手続状況」の両面を重視したと説明した。具体的には、今年3月に県の有識者専門部会がJR東海の示した対策案を全て了承したこと、その後6月下旬までに流域住民への説明会が実施されたことを判断材料に挙げた。
説明会は5月26日から6月22日にかけて計22回開催され、JR東海の報告では延べ1,137人が参加した。県職員も同席する形での説明が繰り返され、参加者からは対策や説明の充実を評価する声があったことが知事発言で紹介された。一方で、水資源への不安や懸念を持つ住民が依然として存在することも知事は認め、県として徹底的に対応すると強調した。
「県民や流域自治体、関係団体の理解は着実に進み、協定を締結できる段階にきたと判断した。水資源への影響などについて、依然として不安や懸念を抱えている方がいる。県として徹底的に応えていく」
住民や流域への影響と今後の対応
静岡工区の着工容認は、地域住民や利水団体にとって生活用水や農業用水の安定供給に関わる重要事項だ。県は協定締結によってJR東海に対し自然環境保全措置の履行を求める枠組みを明確にするが、住民が懸念する事柄に対する実効性のある監視・検証体制と、万一の影響が表面化した際の補償や代替措置がどのように運用されるかが焦点となる。
県が示した今後の対応としては以下が想定される:
- 7月18日の協定締結後、協定に基づく詳細な環境保全措置と監視体制の公開
- 利水団体や流域自治体との継続的な協議・情報共有
- 工事中および工事後の影響を評価するための第三者評価や定期報告の実施
協定締結後、JR東海は手続きが整い次第工事に着手する意向を示している。県議会での説明では、住民説明や専門部会の了承を踏まえた判断であることが繰り返し示されたが、地元の理解が完全に得られているとは言えない状況が続いている。
過去の対立と今回の変化
静岡工区を巡る対立は長期化してきた。2017年に当時の川勝前知事が着工認可を否定して以降、JR東海は計画の先行き不透明化を余儀なくされ、開業予定時期の見直しを迫られてきた。今回の鈴木知事の表明は、県の立場を転換させるものであり、国やJR東海、流域自治体を含む関係者間の調整が一段と進む契機となる。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 静岡工区の県内延長 | 8.9km |
| 南アルプストンネル総延長 | 約25km(参考) |
| 専門部会の対応 | 2026年3月にJR案を了承 |
| 説明会開催期間 | 5月26日〜6月22日(22回) |
| 説明会参加者数(延べ) | 1,137人 |
地域の視点――住民にとって何が変わるか
着工容認は、地元経済や雇用面での期待を持つ層と、水利や環境保全を優先する層の間で評価が分かれる。工事着手に伴い、以下のような具体的な影響が想定される。
- 建設段階での雇用創出や関連産業の受注増加(長期的な地域経済の変動要因)
- トンネル工事に伴う地下水の影響や河川流量の変化に対する監視・補償の必要性
- 地域説明会や協定に基づくモニタリング結果に対する住民のアクセスと検証機能の重要性
県は、着工を容認した段階でも「これからが本番」であると述べ、住民の懸念に応えていく姿勢を示している。協定で定める保全措置がどこまで実効性を持つか、県とJR東海、国、流域関係者がどのように連携して実行に移すかが、今後の焦点となる。
今回の判断は、静岡県の水源や自然環境を巡る長年の議論に一つの区切りをつけるものであり、地域社会に与える影響は大きい。7月18日の協定締結を経て、具体的な監視体制や補償の枠組みがどのように明示されるかを注視する必要がある。
(森 千尋)