久米島で海水を起点としたCO2回収技術の実証へ
株式会社日立製作所、株式会社商船三井、日本航空株式会社の3社は、沖縄県久米島町で海水中からCO2を直接分離・回収する技術「ダイレクト・オーシャン・キャプチャー(Direct Ocean Capture:DOC)」の国内初の実海域取水を伴う実証に向け、覚書(MOU)を締結した。実証は久米島の陸上に設置したコンテナ型の実証設備に海水を取り入れて処理する方式で行われ、技術適用性の確認や環境影響に関する基礎データの取得を目指す。
DOCは、海水中に溶け込んだCO2を抽出することで海と大気間の炭素の平衡を変化させ、結果として大気中のCO2を間接的に低減する手法である。海水中のCO2濃度は大気の約100~150倍とされ、低コスト・低エネルギーのポテンシャルが期待されている点が特徴だ。今回の実証は、海域と接続して実海域の海水を取水・処理・排水する設備を用いる国内で初めての試みとしている(3社調べ、2026年7月時点)。
「海水からCO2を直接かつ安定的に分離・回収する手法です。」
3社は実証で得られるデータを基に、回収したCO2の地域での利活用や環境教育、プロモーションを含めた技術の拡張可能性を検討する意向だ。将来的には、回収CO2を再生可能エネルギー由来の水素と組み合わせて作る合成航空燃料(E-SAF)などの原料に活用し、島嶼型の国内自給的なカーボン経済圏構築を視野に置く。
地域にもたらす影響と課題
久米島は海洋研究の知見や人材が集積し、海洋温度差発電など先進的な実証が行われている地域であり、DOC実証の立地条件として適しているとされる。だが、地域社会にとっては次のような具体的な影響や課題が想定される。
- 環境モニタリングの徹底:海水取水・処理・排水を伴うため、海洋生態系や水質への影響を長期にわたり監視する必要がある。
- 地元経済への波及:回収したCO2を地域内で活用する道筋が形成されれば、地元産業や雇用創出につながる可能性があるが、実用化までのコスト負担や仕組み構築が課題となる。
- 地域説明と合意形成:観光業や漁業関係者を含む住民への丁寧な説明と協力体制の構築が不可欠である。
実証を主導する各社はそれぞれの役割分担を明示している。日立は高精度な計測・解析とフィジカルAIを活用した運転最適化、商船三井は地域連携や実証環境整備、JALは将来的なE-SAF等の燃料需要側の検討に資する立場で関与する見込みだ。
| 企業 | 主な役割 |
|---|---|
| 日立 | 計測・データ解析、フィジカルAIによる運転最適化、MRVデータ基盤構築 |
| 商船三井 | 地域連携基盤の活用、実証環境の整備 |
| JAL | 将来の燃料ニーズ等を踏まえた利活用検討への参画 |
住民が知っておくべき実務的な情報
今回の実証はあくまで技術検証が目的で、商用プラントの稼働ではない。設置は陸上のコンテナ型設備で行い、海水の取水配管を通じて処理をする方式が採られる。実証段階で得られる主な情報は以下の通りだ。
- CO2回収量と電力消費データ:技術の効率性評価に直結する。
- 水質・pH等の環境データ:海洋生態系への影響把握の基礎資料となる。
- 運転条件と機器耐久性のデータ:商用化に向けたコスト見積りに資する。
実証で得られたデータは、信頼性の高いカーボンクレジット創出に向けたMRV(計測・報告・検証)基盤の構築にも活用される予定だ。国内でのDOC確立は、海外からのクレジット調達コスト抑制にもつながる可能性がある。
今後の展望
DOCの実証が進めば、久米島を含む沿岸地域がCO2回収と再利用を組み合わせた地域循環型の取り組みのモデルケースとなり得る。だが、技術的な実効性、コスト、環境影響、そして地域社会の合意形成という複合的な課題を克服する必要がある。実証期間中は、得られる知見の透明性確保と地域との連携がカギとなるだろう。
地域住民、漁業・観光関係者、市町村や県がどのように実証に参画し、リスクと利益を共有するかが、今後の展開を左右する。専門データに基づく冷静な評価と、地元の理解を得るための継続的な対話を求めたい。
(執筆:小川 拓海/プレスリリースジェーピー・沖縄県担当)