企業と地域が連携、耕作放棄田を湿地化
サントリーホールディングスは、熊本県上益城郡益城町下陳地区で地域団体と協定を締結し、湿地の再生活動を始めた。対象は同社の「サントリー 天然水の森 阿蘇」に隣接するおよそ3,000㎡の耕作放棄水田で、近傍を流れる河川水を引き入れて湛水(たんすい)することで湿地化を図る。
活動の目的は、カエルなどの両生類や水生昆虫が生育できる環境を整えることに加え、地下水の浸透を促進して水源涵養機能を高める点にある。農地・森林・湿地を流域単位でとらえた保全を進めることで、地域の水循環の健全化を目指す。
役割分担と科学的モニタリング
取り組みは地域団体・企業・専門家がそれぞれの役割を担う体制で進められる。地域団体は日常的な草刈りや湛水管理、サントリーは湛水設備の設置や圃場整備を担当する。専門家の知見に基づいた科学的なモニタリングを行い、環境の変化と効果を継続して検証する計画だ。
このような協働体制により、地域の主体性と企業の資源・ノウハウを組み合わせた持続可能な管理が目指されている。
背景――20年以上の流域保全の蓄積
サントリーグループは2003年から「サントリー 天然水の森」活動を阿蘇地域で展開しており、現在は全国で16都府県・27カ所、合計で12,000haを超える森林管理に携わっている。益城町では2010年から行政や地域農家と連携した「冬水田んぼ」も進めてきた。今回の湿地再生は、これらの取り組みに加わる新たな柱となる。
- 対象面積:約3,000㎡の耕作放棄水田を湿地化
- 主要狙い:生物多様性の回復、地下水涵養機能の強化
- 運営体制:地域団体(管理)+サントリー(設備・整備)+専門家(モニタリング)
こうした複合的な取り組みは、流域全体での水の循環機能回復を見据えたものであり、単一の施策だけでは得られにくい効果が期待される。
都市部への波及と「熊本ウォーターポジティブ・アクション」
サントリーは2025年から熊本県内で産官学と連携した「熊本ウォーターポジティブ・アクション」を推進するとしており、都市部での地下水涵養のために雨庭などのグリーンインフラ導入も計画している。雨庭は屋根や舗装に降った雨水を一時的にため、ゆっくりと地中に浸透させる植栽空間で、都市部における排水負荷の軽減と地下水回復に資する手法だ。
今回の益城での湿地再生は、森林・農地・湿地の一体的な保全の一環として、都市と農村をつなぐ流域ベースの施策と位置づけられる。流域全体でのネイチャーポジティブ(自然再生を前提とした開発・管理)を目標に、今後は都市側の取り組みとの連携や、地域住民への説明・参加が重要になる。
地域住民への影響と留意点
この種の湿地再生は住民生活に複数の面で影響を及ぼす可能性がある。まず地下水涵養が進めば、生活用水や農業用水の安定性向上が期待される一方、湛水管理による蚊など水辺の生物の増加や、農地利用の制約が生じる地域もある。事業者と地域団体が日常管理を分担する計画は、こうした問題の軽減に向けた重要な手立てだ。
また、科学的モニタリング結果は今後の管理方針に直結するため、モニタリングの公開方法や住民への情報提供の仕組みづくりも求められる。成果が確認されれば、他地域への展開や都市部でのグリーンインフラ導入の参考となるだろう。
| 項目 | 概要 |
|---|---|
| 対象地 | 益城町下陳地区(耕作放棄水田) |
| 面積 | 約3,000㎡ |
| 目的 | 生物多様性回復・地下水涵養強化 |
| 主体 | サントリーホールディングス+地域団体+専門家 |
住民や関係者は今後、現地での湛水状況や管理計画、モニタリング結果の公開時期などに注目してほしい。湿地再生は短期的な効果が現れにくい環境保全だが、流域全体での水循環回復や地域の生態系回復に資する重要な取り組みである。
サントリー側は今回の活動を起点に、都市側の雨庭などと連携したグリーンインフラ導入を通じて、流域全体でのネイチャーポジティブ実現を目指す方針を示している。今後の進捗は、地域の水環境や農業・暮らしに直接影響を及ぼすため、行政・地域・企業の三者の連携と情報共有が不可欠だ。