環境

海洋性微生物由来の窒素肥料、有望性をほ場で実証

理化学研究所と京都大学などの共同研究が、海洋性紅色光合成細菌由来バイオマスを窒素肥料としてほ場で利用した際に、作物収量を維持・向上させつつ亜酸化窒素の排出を抑える有望性を示した。温室効果ガス削減と窒素肥料の国産化に寄与する可能性がある。

海洋性微生物由来の窒素肥料、有望性をほ場で実証
©イラスト AI生成 :清水 葵/プレスリリースジェーピー

海洋性紅色光合成細菌を原料にした有機窒素肥料の実用性と環境負荷の検証

理化学研究所と京都大学、科学技術振興機構(JST)による共同研究グループは、海洋性の紅色光合成細菌 Rhodovulum sulfidophilum に由来する微生物バイオマスを加工した肥料が、既存の農業生産システムのなかで有効な有機質窒素肥料として機能することをほ場で実証したと発表した。研究成果は国際誌『npj Sustainable Agriculture』のオンライン版に掲載された(掲載日:2026年8月6日)。

研究グループは、培養した細菌を溶解・乾燥して粉末(PB:processed biomass)とし、その窒素動態や温室効果ガス排出量、作物収量への影響を解析した。結果として、PBはゆっくりと安定的に窒素を無機化し、従来の無機肥料に比べて亜酸化窒素(N2O)排出量の大幅な削減につながることを示した。また、ブロッコリーのほ場利用実験では、PBを施用した区で作物の収量が維持または向上したという。

共同研究の代表研究者らは、PBの窒素含有量やC/N比といった化学的特性から、他の動物性・植物性有機肥料と比較して窒素供給能が高い点を強調している。具体的には、PBの窒素含有量は11.0 ± 0.27%、C/N比は4.50 ± 0.22であり、鶏ふんや牛ふん、稲わらなど一般的な有機肥料に比べて窒素含有率が高く、無機化が早いことが示されている。

  • PB(加工バイオマス):窒素含有量 11.0 ± 0.27%、C/N比 4.50 ± 0.22
  • 鶏ふん・牛ふん:窒素含有量 1~4%、C/N比 約 10~14
  • 稲わら・おがくず等の植物残さ:窒素含有量 1%未満、C/N比 約 30~100

これらの性状は、PBが農作物に対して必要な窒素を比較的速やかに供給できることを示唆する。一方で、既存の有機肥料ではC/N比が高いため無機化が遅れ、十分な施肥効果を得るには大量投入が必要になることが多い。PBはこの点で有利であり、施肥効率の向上と施肥量の最適化に寄与する可能性がある。

背景と意義:温室効果ガス削減と窒素資源の国内循環

世界的には2050年に向けて食料生産を大幅に拡大する必要があるとされるなか、窒素肥料は農業生産の要である一方、過剰使用や非効率的利用は環境負荷を高めている。化学肥料の流出は水質汚濁を招き、土壌の劣化や温室効果ガスの排出にもつながる。今回の研究は、こうした課題に対応するための持続可能な代替肥料の可能性を示す点で重要だ。

研究チームは、PBが亜酸化窒素の発生に与える影響を解明した「最初の研究」の一つであると位置づけている。温室効果ガスの観点からは、亜酸化窒素はCO2に比べて単位当たりの地球温暖化係数が大きいため、農業部門におけるN2O排出削減は気候政策上も重要である。PBの緩やかな無機化は、N2O発生の抑制につながる機序を示唆している。

現場適用の課題と今後の展開

ただし、本研究は特定の細菌由来バイオマスを用いた初期的なほ場実験であり、実用化に向けてはさらなる検証が必要だ。以下の点が今後の主要課題になる。

  • 大規模生産とコスト競争力:PBを安定供給するための培養・加工コストと収支の検討
  • 長期的な土壌影響:連用による土壌生物群集や物理化学的性状の変化評価
  • 多様な作物・土壌・気候条件での効果検証:地域差や作物別の最適施用基準の確立

研究発表では、PBが窒素肥料の国産化に資する可能性が示されている。窒素資源の国内循環やバイオマス利活用の観点から、海洋系微生物を原料とする肥料は新たな選択肢になり得る。ただし産業化に際しては、環境リスク評価、規格化、農家の受容性、流通インフラなど多面的な整備が求められる。

試験結果の概要(データ表)

項目 PB(R. sulfidophilum由来) 比較対象(鶏ふん等) 備考
窒素含有量 11.0 ± 0.27% 1~4% PBは高窒素含有
C/N比 4.50 ± 0.22 10~14(家畜ふん) PBは無機化が速い傾向
ほ場試験(作物) ブロッコリー:収量を維持または向上 詳細は論文参照

研究グループは、今回の結果が「温室効果ガス低排出型の野菜生産のための有望な戦略」であると結論づけている。今後は、ほ場での追試や大規模化に向けた技術開発、経済性評価といった実装フェーズに移行することが必要だ。農業現場と研究機関、産業界が連携して検証を進めることが、次の課題となるだろう。

(清水 葵/プレスリリースジェーピー 環境担当記者)

清水 葵
清水 AI編集 環境担当記者 オンライン

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