兵庫県の財政を示す主要指標が悪化し、8月にも県債発行が国の許可を要する枠組みに移ることが確実視されている。阪神・淡路大震災後の復旧・復興事業に伴う累積負担や、近年の金利上昇が重しとなる中、過去の地方債の扱いを巡る不適切な会計処理が判明。県は財政再建の素案をまとめ、国に計画を提出する方針だが、公共投資の抑制と地域インフラ維持をどう両立するかが問われている。
悪化する実質公債費比率、国許可の段階へ
県の実質公債費比率(過去3年平均)は、令和7年度決算までで18%超の見込みとなり、県債の新規発行に国の同意が必要な起債許可団体へ移行する情勢だ。これは自治体の資金調達の自由度が縮小することを意味し、今後の事業計画の策定や執行に直接の制約がかかる。
さらに、6月下旬の内部点検で判明した会計処理の問題を織り込むと、同比率は最大0.8ポイント程度悪化する見通し。対策が後手に回れば、令和12年度には25%(3年平均)の早期健全化基準を上回る恐れがあるという。都道府県で同基準を超えた前例はなく、県の財政運営は極めて厳しい局面を迎える。
何が問題だったのか—用地関連の地方債処理
焦点は、過去の公共事業用地の取得に関する資金調達の扱いだ。県は用地取得のために490億円の地方債を発行。その後、取得地の売却で得た338億円を元金返済に充てず、2年度に全額を借換えた。結果として、県債管理基金の取り崩しを回避し、見かけ上、実質公債費比率の上振れを抑える効果が生じていた。
県が総務省に確認したところ、地方財政法に照らし違法な起債となる可能性を指摘された。県は当時の担当者から事情を聴取したが、違法性の認識はなかったとし、詳細な経緯は不明としている。斎藤元彦知事は、当時のトップからの方針に基づく対応だったと説明し、第三者による検証を行う考えを示した。
「当時の知事から全額借り換えと県債管理基金の残高確保の指示があり、それに基づいて実施したと報告を受けている」
この問題を反映させるため、県は基金残高を見直したうえで指標を再計算。これが先の0.8ポイントの悪化見通しにつながっている。
投資抑制と地域インフラ維持、ねじれの課題
県は当面、公共投資の規模を最低1割抑える方向で検討し、実質公債費比率が25%を超えない水準に管理する構えだ。さらに来年度には、歳入・歳出の全面的な点検へ踏み込み、財源確保と歳出効率化の両面で対策を加速させる。
一方、有識者会議では、過度な投資カットは施設や道路・河川などの機能低下を招くとし、民間資金の活用など代替手段を取り入れるよう提案が出ている。県議会の委員会でも、将来世代へのインフラ継承の観点を踏まえ、必要な整備は計画的に継続すべきだとの意見があがった。
- 短期:実質公債費比率の上振れ回避を最優先(投資の10%抑制)
- 中期:財源確保と歳出改革(基金の最適化、平準化)
- 長期:民間資金や官民連携で設備更新を継続
住民生活への影響—何が起き得るか
財政の縛りが強まると、道路補修や橋梁点検、河川の維持、学校施設の改修など、生活基盤に直結する事業の時期・規模の見直しが生じうる。とりわけ、老朽化が進むインフラの計画的更新は先送りが重なるとコストが増すため、県は優先度に応じた選択と集中を進めざるを得ない。起債の裁量が狭まる中でも、災害リスク低減や安全対策は後退させられないため、限られた財源の中での最適配分が鍵となる。
同時に、国の許可制に移行すると、事業の着手時期が国の審査スケジュールに左右され、手続き時間が延びる可能性がある。自治体独自の機動性が損なわれれば、地域課題への迅速な対応に影響が及ぶ懸念もある。
指標と基準の位置づけ
実質公債費比率は、借金返済や将来負担につながる支出の重さを、標準的な財政規模と比較するもの。県は現時点で18%超とされるが、基準を踏まえると余裕は大きくない。
| 区分 | 基準値(3年平均) | 主な影響 |
|---|---|---|
| 現状見通し | 18%超 | 起債に国の許可が必要(8月以降) |
| 早期健全化基準 | 25% | 財政運営の自由度が一段と低下 |
基準超えを避けるには、将来負担の抑制と、既存債務の償還計画の見直しが焦点となる。基金の積み増し・取り崩しのタイミング管理も、指標の平準化に直結する。
今後の手続きと求められる透明性
県は8月に財政再建の素案を国に提出し、歳入歳出の再点検に着手する。過去の会計処理の適否については、外部の専門家による検証で経緯と責任の所在を整理し、再発防止のルールを明確化することが不可欠だ。公共投資の優先順位や、私資本の導入余地、施設の統廃合の考え方なども、住民にとっての利便や安全と照らして丁寧に公開していく必要がある。
財政の健全化は、短期の支出抑制だけでは実現しない。県内経済の底上げや人口動態の変化への対応とあわせて、長期的な負担の見通しを描き直す作業が続く。県は、厳格な財政規律と、地域の暮らしを守る投資を両立させるための具体策を早期に示すことが求められている。