県の指導者紹介制度、申請は一件もなし
石川県が昨年度から運用を始めた中学校の休日部活動における指導者紹介制度(以下、バンク)が、登録者が約80人いるにもかかわらず、運用開始から5日時点で一度も利用申請がなかったことが県教委への取材で分かった。市町教委や地域のスポーツクラブが申請できる仕組みだが、現場からは「登録情報だけでは依頼しにくい」といった声が上がっている。
この制度は、教員の多忙化を背景に、公立中学校の部活動を地域のスポーツ団体などに移管・委託する「地域展開」を進める上で、外部指導者の確保を目的に導入された。県教委は既存の「スポーツリーダーバンク」(1992年設置)を活用し、昨年度から市町教委や地域クラブによる申請にも対応できるよう運用を拡大した。
しかし、バンクに登録されている指導種目は軟式野球、陸上、水泳、テニス、太極拳など多岐にわたる一方で、登録情報の公開項目は氏名や指導資格などに限定されており、写真や年齢は公表されていない。公表されている登録者は65人で、その多くが金沢市と近郊に集中している。反面、奥能登地域の公表登録は4人にとどまり、地域間の偏在も指摘されている。
「限られた登録情報だけではお願いできない」「顔の見える関係がないと、子どもを任せられない」
こうした現場の声は、利用申請が進まない一因になっているとみられる。県教委は、登録者の数を増やすとともに、検索システムの使いやすさ向上を図る方針だが、まずは指導者の人となりが伝わる仕組みづくりを優先的に検討している。具体的には、短期間の試行利用や、地域で顔の見える接点を作る取り組みなどの導入を検討していると説明している。
移行完了は運動部5市町、文化部6市町に限定
県教委のまとめでは、昨年度末時点で休日の地域展開移行が完了しているのは、運動部で小松市、加賀市、かほく市、中能登町、能登町の5市町、文化部で加賀市、かほく市、珠洲市、能登町、穴水町、川北町の6市町にとどまる。国は休日の地域展開を2031年度末までに実現するよう求めており、県内では移行の進捗に差があることが鮮明になっている。
地域展開が進まない場合、学校現場では引き続き教員が部活動指導を担う必要があり、教員の負担軽減という政策目的が達成されないリスクがある。一方、地域に委ねられることで部活動の多様化や、地域スポーツ団体の活性化につながる可能性もある。現時点ではその過渡期にあるため、信頼構築と実務的な受け皿整備が課題だ。
住民・保護者にとっての影響と留意点
今回の状況が示すのは、制度があっても現場に受け入れられなければ機能しないという点だ。保護者や自治体、地域クラブにとって重要なのは、以下の点である。
- 指導者の人物像や顔が見える情報提供の必要性(信頼確保)
- 地域ごとの指導者偏在の是正(地域間格差の解消)
- 短期間の試行や顔合わせの場づくりによる不安解消
県教委は、これらを踏まえた改善策として登録者拡大と検索システムの改修に加え、短期お試し利用の導入を検討している。短期利用は、実際に指導を見て安心感を得る機会となることが期待されるが、実現にあたっては保険や指導体制、責任の所在など具体的な運用ルールの整備が必要になる。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 登録者数(全体) | 約80人 |
| 公表登録者数 | 65人 |
| 奥能登地域の公表登録 | 4人 |
| 運動部地域展開完了市町 | 5市町 |
| 文化部地域展開完了市町 | 6市町 |
地域展開の実効性を高めるためには、県教委と市町教委、地域クラブ、保護者の間で情報共有と役割分担を明確にすることが不可欠だ。特に奥能登のような人口希薄地域では、指導者確保の難しさが際立つため、移動支援や報酬体系の見直し、地域内外の連携強化といった補完的な施策が求められる。
県教委担当者は、引き続き登録者の拡大と利用しやすいシステムの構築を進めるとともに、「子どもが生き生きとスポーツできる機会を整備していきたい」と述べている。制度を実際の部活動運営につなげるためには、顔が見える関係の形成と実務面の精緻化が当面の焦点となる。
(取材・文=木村 淳)