実務に触れる場を地域でつくる試み
北九州市に拠点を置く一般社団法人「TSUNAGU(ツナグ)」は、学生が企業から請け負った課題に取り組むことで実社会と直結した学びを提供する活動を進めている。代表理事の丹羽雅也氏は文部科学省のキャリア官僚としての経験を経て、2023年5月に北九州に残り、昨年5月に法人を設立した。
丹羽氏は「学校で学ぶ基礎学力は重要だが、それだけでは実社会との接点が薄い」と述べ、学校とは別の「第2の教育インフラ」を地域につくる必要性を強調する。活動は、企業が抱える具体的な課題を学生チームが受け、設計から試作までを行う形で進められている。
- 実施例:まちづくり事業での「スマートスポーツロッカー」開発(電子認証で用具を貸し出す仕組み)
- 参画大学・高専:北九州高専、九州工業大学、西日本工業大学などを横断する学生チームが形成されている
- 拠点:小倉北区・魚町銀天街に5月開業したプロジェクト拠点「MID.」
具体的なプロジェクトの一つとして、電子制御やシステム開発、建築設計といった分野を持つ学生が連携する事例が紹介されている。例えば高専の学生が電子制御を担当し、九州工業大学の学生がシステム面を担い、西日本工業大学の建築系がロッカー本体の設計に関わるといった役割分担だ。
「受験勉強しかしてこなかった学生が社会で苦しむのは、その子が悪いわけではなく、社会のシステムがうまくいっていない」
丹羽氏はこうした問題意識から文科省に在籍中に校内外で試みを行ったが、学校組織だけでは変革が進みにくいと判断。出向先の北九州市で実務経験を積んだのち、地域に残って事業を続ける決断をしたという。市教育委員会では部長職を務め、企業との調整や資金集めにも関与した経験が、現在の事業運営に生かされている。
地域への影響と住民にとっての意義
地域にとっての利点は複合的だ。学生側は学内だけでは得られない実務経験を積めるため、就職後の即戦力化につながる。企業側は地元の人材と協力してコストを抑えつつ、新規サービスやプロダクトの試作が可能になる。行政や商店街は地域課題の解決に向けた実証実験を地元資源で行える。
丹羽氏によれば、現在TSUNAGUには約280人の学生が登録している。北九州にいる大学生や高校生は約5万人とされ、そのうち約1割程度が関心を示せば登録者はさらに増えるとの見通しを示している。拠点は商店街に位置しており、地域との接点を持ちやすい立地だ。
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 登録学生 | 約280人 |
| 北九州の大学生・高校生 | 約5万人 |
| 目標となる関心層の割合 | 約1割 |
住民の観点からは、地域産業と若い人材が結びつくことで、地場産業の活性化や新たな雇用の創出が期待できる。また、商店街や公共空間を用いた実証事業は、利便性やサービス向上に直結する可能性がある。一方で、事業継続性や資金面、学生の学業との両立といった課題も無視できない。
今後の展望と留意点
TSUNAGUは今後、学生の輪を広げ、異なる専門性が混ざり合う集積を目指すとしている。事業を軌道に乗せるには、参画企業の継続的な支援や、自治体・教育機関との連携体制の明確化が重要だ。また、成果の社会実装や知財、責任分担のルールづくりも必要になる。
住民・保護者にとって有用な点は、参加の窓口が地域にあることだ。関心のある学生や企業、地域団体は拠点「MID.」やTSUNAGUの公開情報を確認し、説明会やプロジェクト募集に参加することで具体的な関わり方を見出せる。
北九州は外部から来た人材を受け入れる土壌があると丹羽氏は話す。地域の課題解決と若者の成長を結びつける取り組みが広がれば、街の教育環境と産業構造に新たな波及効果をもたらす可能性がある。今後の動向は、地域の将来を占う一つの指標となるだろう。