県内中小企業の営業現場にAIを伴走させる実証実験が始動
株式会社RAYVEN(本社:大阪市)が、愛媛県の採択事業「トライアングルエヒメ2.0」令和8年度の新規プロジェクトに選ばれ、県内での営業工程自動化(営業AX)の実装実験を行うことが発表された。今回の採択は、過去最多となった507件の応募(一般枠406件、共創拠点枠101件)のうちの1件で、一般枠17件の一つに入った。
実証は2026年7月から2027年3月まで実施され、実装先として愛媛県松山市の株式会社イプラと、県内で事業を展開する山陽物産株式会社の2社が参加する。プロジェクトは複数のAIエージェントと、RAYVENが開発したAIガバナンス基盤「Tumiki MCP Manager」を組み合わせ、SNS発信からリード獲得、商談予約、議事録作成まで営業活動の全工程にAIが伴走する仕組みを検証する。
「AIに任せられる業務を仕組み化することで、人が本来向き合うべき領域により集中でき、これまで以上に価値ある提案やサポートを提供できると考えています。」(株式会社イプラ 代表取締役社長 小田泰平)
RAYVENは、AIエージェント同士および外部ツールとの通信をTumiki MCP Managerで一元管理する点を強調している。通信層ではRBAC(ロールベースアクセス制御)やPII(個人情報)の自動マスキング、監査ログなどを適用し、情報漏洩リスクの抑制を図るとしている。
目標と期待される効果
公表されたプロジェクトの目標は、実装先2社の合計で商談数を2倍、新規売上を20%増(年間約5,000万円相当)とされる。具体的には、以下の領域で効果を見込むと説明されている。
- SNSやコンテンツ発信の自動化によるリード獲得の効率化
- AI架電(自動発信)による商談予約の増加
- 既存顧客への定期フォロー自動化での継続的接点確保
- 問い合わせ対応の即時化や属人化ノウハウのデータ化による対応品質の安定化
実装先の企業側からは人手不足と営業の属人化を背景に期待の声が出ている。山陽物産の総務担当は、新規顧客との接点づくりや営業ノウハウの継承が課題だと述べ、AI活用により営業担当が付加価値の高い業務に専念できる構造をつくりたいと語っている。
地域産業への波及と課題
愛媛県はデジタル技術の県内産業への実装・定着・横展開を目的に「トライアングルエヒメ2.0」を推進しており、採択事業には最大で3,000万円の委託費などの支援が付与される。今回の採択は、県内の中小企業が抱える営業現場の人手不足や生産性課題に対し、AI導入で対応する実証ケースとして注目される。
ただし、実用化・横展開に向けてはいくつかの課題が残る。まず、導入効果が実際に各社の営業組織にどう組み込まれるか、人的リソースの再配置や教育が必要となる点。次に、個人情報や顧客データを扱うにあたっての運用体制、セキュリティ・ガバナンスの現場適用度合いだ。RAYVEN側はTumiki MCP Managerによる制御で対応するとしているが、現場での運用負荷や監査対応が増える可能性もある。
さらに、AIエージェントが生成するアウトプットの品質管理も重要だ。営業プロセスでは顧客との信頼関係が収益に直結するため、AIによる自動応答や架電が顧客に与える印象をどう担保するか、人的チェックの設計が求められる。
実装スケジュールと住民・企業への影響
実証は2026年7月に開始し、2027年3月まで行われる。短期的には参加する2社の業務負荷軽減と商談創出の増加が期待されるが、中長期的には同様の仕組みが県内の他の中小企業へ横展開されることが狙いだ。横展開が進めば、次のような影響が想定される。
| 想定される変化 | 影響を受ける主体 |
|---|---|
| 営業工数の削減 | 中小企業の営業担当者 |
| 新規顧客接点の拡大 | 販売・サービス事業者 |
| 属人化ノウハウのデータ化 | 経営層・後継者 |
県内の中小企業では、人口減や人手不足が続く中で、営業活動のデジタル化は生産性向上の切り札になり得る。一方で、導入に伴う初期費用や運用コスト、従業員のスキル整備が障壁となる可能性も高く、県や事務局によるメンタリングやナレッジ提供が重要になる。
まとめ
今回の採択は、愛媛発の営業支援モデルを県内外に示す試金石となる。実証で示される成果と課題が明確になれば、同様の課題を抱える他の中小企業にとって導入判断の参考になるだろう。県の支援体制を活用しつつ、実務の現場での運用性と顧客信頼の確保を両立させられるかが、今後の展開を左右する。
(取材・執筆:青木 沙織)