発見と選択の現状
前立腺がんは、男性にのみ存在する前立腺に発生する悪性腫瘍で、近年その罹患数が増加しています。厚生労働省の報告によれば、令和5年は新たに10万2094人が前立腺がんと診断され、男性の部位別罹患数で最も多くなりました。多くは初期に自覚症状がほとんどないため、血液検査の一つであるPSA(前立腺特異抗原)検査が発見の契機となる場合が多く、検診や健診で見つかるケースが少なくありません。
治療法は多様、利点と欠点を比較
転移がなく限局した前立腺がんでは、患者の病期やPSA値、病理で示される悪性度(グレードグループ)、MRIなどの画像診断結果に基づいてリスク分類が行われます。治療の主な選択肢は次の通りです。
- 監視療法:低リスク〜一部中リスクで採られることがあり、定期的な検査で経過を観察します。
- 手術(全摘):ロボット支援手術が多く、病巣を取り除ける一方で術後に尿失禁などの機能障害が起こることもあります。
- 放射線治療:外部照射や組織内照射、粒子線治療などがあり、近年は照射回数を減らす方法も利用されています。
- ホルモン療法/化学療法:転移・進行例ではホルモン療法が中心になり、必要に応じて化学療法が行われます。
各治療法には、それぞれの特徴と副作用があり、治療成績が同等の選択肢も存在します。実施可能な治療は施設ごとに異なる場合があるため、患者側の希望と医療環境の両面を踏まえた選択が重要です。
森田將(昭和医科大江東豊洲病院副院長・泌尿器科教授)
「どの治療法にも利点と欠点がある。それを理解した上で、本人が『どのような暮らしをしたいのか』『何を大切に思っているのか』を率直に医師に話し、相談して納得して決めてほしい」
発見の背景と検査の意義
前立腺がんが増加している背景には、PSA検査の普及による早期発見の増加のほか、食生活の欧米化や遺伝的要因が関係すると考えられています。年代別では50代から増え、70代がピークと報告されており、専門家は50代を目安に一度はPSA検査を受けることを勧めています。家族歴(父親・兄弟に罹患歴がある場合)がある人は、更に早期の検査を検討するべきです。
暮らしをどう守るかを軸にした相談を
前立腺がんは進行が比較的ゆっくりで、直接の死因とならない場合もあるため、治療の選択は治療後の生活の質(QOL)を重視して行う必要があります。例えば、早期に職場復帰を望み、術後の尿失禁を避けたいという希望がある場合は、手術以外の治療法を検討することが選択肢になります。また、密封小線源治療や高線量率小線源治療など、施設によっては専門性の高い治療法が提供されている場合もあります。
医師はPSA値や画像、病理結果を総合してリスク分類を行い、患者の価値観や生活に合った方針を提案します。患者側も、自分の優先事項(機能温存、通院頻度、仕事復帰の時期など)を明確にし、それを医師と共有することが納得のいく治療につながります。
データで見る前立腺がん(令和5年)
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 新規罹患者数 | 10万2094人 |
| 平成28年との比較 | 約14%増(8万9717人→10万2094人) |
| 発見経緯(がん検診等) | 26.6%が検診等による発見(部位別で最多) |
検診や人間ドック、他疾患の経過観察中に見つかる割合は高く、医療機関を受診した際にPSA検査が行われて発見されるケースも多く報告されています。
前立腺がんと診断された際には、情報を整理し、利点・欠点を比較した上で、自分の暮らし方に合う治療を選ぶことが大切です。治療の選択肢が複数ある場合、セカンドオピニオンや専門施設の意見を聞くことも有効です。
(取材・文=小林 陽菜)